Photo:長谷部ナオキチ


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区民ニュース編集長 高木優一が

クローズアップしていきます。


なぜ協同組合?「としま福祉事業協同組合」発足の背景

高木 優一:2020年6月、豊島区に介護事業者が集まる協同組合「としま福祉事業協同組合」が誕生しました。西谷理事長、まずは発足の経緯についてお聞かせください。


西谷剛:2011年、当時30〜40代だった若い経営者が情報交換の場として集まり始めたのが全身の「豊島区福祉事業者の会」通称「豊福会」でした。それが先般、正式な認可を受け「協同組合」として新たなスタートを切りました。ちなみに通称の「豊福会」はそのままです。


高木 優一:なぜ協同組合の認可を受けられたのでしょう?


西谷剛:介護事業者の協同組合化は、もともと東京都の補助金の対象事業でした。まずは自治体が手を挙げないと進まないのですが、2018年の募集時に東京で唯一、豊島区が手を挙げ、我々を推奨してくれたのです。


高木 優一:区からオファーを受けたような感じでしょうか?


西谷剛:旧豊福会では情報交換だけではなく、会員事業者の職員のスキルアップ研修を共同で行ったり、行政から福祉担当者の方を招いて講座をしてもらうなど、組織立った活動をしていました。区からも認知をされていて、すでにある組織をスライドできるので、やってみませんか、とお声がけいただきました。そして協同組合設立に向け、区が主催する研修会「介護経営カレッジ」への参加にオファーを頂いたという格好です。


高木 優一:協同組合だと、どのようなメリットがありますか?


西谷剛:いちばんの利点はスケールメリットです。介護事業でみんなが悩んでいるのは人の部分、採用と育成が常に課題です。広告や説明会といった採用活動を共同で行ったり、研修をまとめて行うことで、経費を抑え、効果を最大化することができます。また、中小企業組合法による補助金が使えたり、資金調達もしやすくなり、金銭的なフォローが受けられます。加えて行政が主導する公的な事業にも参画できるようになるでしょう。事業者が毎年加入しなければいけない損害賠償保険を共同購入したり、保険そのものを設計することも考えられます。端的に言えば、メリットしかないかもしれません(笑)

コロナ禍でも休めない必要不可欠な事業

高木 優一:コロナでは介護事業も大きな影響を受けられたことと思います。どのような状況だったのか、お話しいただけますか。


西谷剛:事業に関しては、どこも通常通り行っており、休業はありませんでした。ただ私が運営するデイサービスでは、ご利用を控えられる方が多くいらっしゃいました。コロナは高齢者の方の重症化率が高いと報じられましたからね。でも、サービスを受けられなくなることで、身体が弱ってしまう点が懸念されました。そこでデイサービスの職員がご自宅に訪問し、体操や入浴介助を行ってよいという特例が出されたのです。状況に応じて柔軟に動いていましたが、それでも2割くらいはご利用控えがあり、業績が落ち込みました。


高木 優一:実際にサービスを受けられずに体調を崩された方というのはいらっしゃったのですか?


西谷剛:デイサービスを休止していたご利用者様の中には、休み明けにずいぶんと認知症が進んでしまった方がいらっしゃったそうです。運動ができずに足腰が弱ってしまい、送迎バスの乗り降りが困難になって、介助が必要になった方もいらっしゃいました。そういうのを目の当たりにすると、この仕事は本当に休んではいられないなぁ、ということを痛感します。


高木 優一:行政からの支援策などはどうなっていましたか?


西谷剛:事業者向け、職員向け、それぞれに補助がありました。東京都の補助金に加えて区ごとの支援もあり、手厚いサポートをしていただいたと思っています。それこそ休めない仕事で、職員が大事ですので、行政がそこはしっかり守ってくれているように感じました。組合の事業者同士で情報を共有できたおかげで、申請も早く、いただける支援をきちんと受けられてたと思います。これもまた、協同組合のスケールメリットと言えるのかもしれません。

介護業界が抱える課題とICTによる未来像

高木 優一:コロナ以前と今、介護事業を取り巻く課題や状況の変化についてお聞かせください。


西谷剛:人手不足。これはコロナ以前から続く介護業界の永遠の課題ですね。全分野で絶対数が不足していますが、とりわけ訪問介護の分野ではなり手がいないに、一対一でお宅に伺う仕事なので、初めての方にはハードルが高いのです。ヘルパーも高齢化してきているので、施設型よりも人材についての課題が深刻です。


高木 優一:良い解決方法はありますか?


西谷剛:採用と育成を強化してフォローアップの体制を今以上に整えていく、といったイメージでしょうか。組合が発足して間もないために、まだ具体的な計画はできていませんが、スキル向上を図るための共同研修事業である実務者研修は、密を避けての間引き開催で実施ができました。ここでも臨機応変にスケールメリットを活かし、善処したいと考えています。


高木 優一:高齢化がますます進む中での将来展望という点ではいかがでしょう?


西谷剛:介護報酬が毎年見直され、そのたびに下がっていく制度の問題があります。高齢化が進み、国の医療費負担、介護費負担が増大する中では仕方のないことなのかもしれません。以前は長時間のサービスができましたが、いまは細かく分けられています。必要最低限を短時間で行う方向になっており、サービスを受けられる人の線引も変わっていくと思います。ご存知の通り利用者負担も上がり続けていますからね。極端に言えば、自助できる方はご自身でなんとかしてください、という流れなのだと思います。


高木 優一:西谷さんたち事業者にも、我々利用者にも、状況はどんどん厳しくなっていきそうですね。何か明るい材料はありますか?


西谷剛:コロナの功罪の功と言えるのかもしれませんが、介護の分野でもリモートは進みました。介護計画を決めたりする担当者会議は、ケアマネを筆頭に関わる職員が必ず対面で打ち合わせをする必要がありましたが、オンラインでの会議に変わり始めています。また今後は、ICT化を推進していくことで人手不足の解消、サービスの向上、利用者負担の軽減などが実現できるかもしれません。


高木 優一:ICT化はすでに具体的な取り組みが始まっているのでしょうか?


西谷剛:実は私たち協同組合の参画メンバーの中には、豊島区の「選択的介護」のモデル事業に参画している会員も数社おり、コロナとは関係なく、3年ほど前からICT政策の機器を導入し始めました。利用者である高齢者の方が実際に暮らしている状態や、夜の行動などを可視化するアセスメントで、そのデータをもとに、人の配置やケアの計画を効率的に組み立てていくことができます。必要な場所に必要な時間だけ必要な人を配すれば、無駄のないサービスや省力化が実現できると思っています。


高木 優一:素晴らしい取り組みですね。そういった組織的で先進的な動きをする上でも、「協同組合」は大きな一歩だったと言えますでしょうか。


西谷剛:以前、介護事業を営んでいた経営者が急逝して施設が閉鎖に追い込まれ、利用者の方々が取り残されてしまったケースがありました。介護は人によっては一日も欠かせないサービスであり、これから増え続けることも自明です。国や自治体からすれば、大きなところに一元管理してもらう方が安心なわけです。それに中小事業者が対抗するには、「協同組合」という公的に認可された組織を作ることは非常に有効だと思います。みんなでまとまって互助し合い、収益力を高めて留保を増やし、時代の変化にも柔軟に対応できる力を蓄え、事業を安定させていくことが重要だと考えています。


高木 優一:なるほど。新生豊福会の熱意と意欲がひしひしと伝わってきました。介護は日本の社会課題のテーマでもあります。今後も、西谷理事長の活動と豊福会の事業に注目していきたいと思います。本日はお忙しい中ありがとうございました。



西谷  剛  プロフィール

株式会社まんぞく介護(ヒルマ薬局グループ)代表

協同組合としま福祉事業協同組合(豊福会)理事長

介護福祉士  社会福祉士  介護支援専門員  福祉用具専門相談員  福祉住環境コーディネータ


★略歴

1978年6月生まれ

2000年社会福祉士の専門学校を卒業後、病院内の訪問介護事業に携わる。

2003年現職前身であるヒルマ薬局に入社。介護事業部の立ち上げに参画。

訪問介護所長、居宅介護支援事業所長、介護事業部統括部長を歴任。

2015年より介護事業分社化により現職。

訪問介護、福祉用具貸与、販売、居宅介護支援事業所、通所介護など、東京都豊島区の池袋を中心に3店舗を経営。

在宅介護の現場で18年の経験をもつ。

趣味は子どもお酒とゴルフ。2児の父。


組合ホームーページ

http://toyofukukai.com/

株式会社まんぞく介護

http://manzokukaigo.com/