今回は、大田区蒲田に法律事務所を構える稲葉治久さんをゲストにお招きしました。

様々な人種、階層の人たちが暮らす街で、生活に密着したさまざまな法律相談に乗る若き弁護士の、地域への想いを語っていただきました。


Photo:長谷部ナオキチ

意外と少ない蒲田の法律事務所

高木優一:稲葉先生は蒲田で弁護士事務所を開設されていますが、私は以前から川崎市の弁護士の先生方に蒲田に事務所を開くといいですよと吹聴しているんですよ。


稲葉治久:そうなんですか(笑)。


高木優一:蒲田って都心からも横浜からもアクセスがよくて抜群のロケーションだと思います。JRはもちろんのこと、京急線も東急線も通っています。当然人口も多くて街は活性化しています。それなのに弁護士の数は極端に少ないんですよね。



稲葉治久:確かに人口比で見れば弁護士の数は少ないかもしれません。


高木優一:これだけ消費者金融のATMが多い街も他にないとも言えます(笑)。


稲葉治久:確かに。


高木優一:不動産の任意売却をやっていた関係で、どこに消費者金融のATMがあるのかを調べたことがあるんですが、異常なほど蒲田が多かったんですよ。


稲葉治久:なるほど。頷けますね。



高木優一:まあ、ギャンブルを抜きにしては考えられないですよね。右に行けば川崎競輪、左に行けば平和島がある、という立地ですから。それに昼間の12時から酒を飲ませてくれる店などもあって、消費者金融利用の土壌が見事に揃っているというか(笑)。


稲葉治久:そういう街なんです。


高木優一:いろんな人種、職業の坩堝だとも言えますよね。坪単価が高くて中小企業の数も半端じゃないほど多いというのも特長です。すぐ近くに羽田があって、蒲田と併せて非常に庶民的というか下町の匂いが立ちこめた場所なのに、少し北に行けば高級住宅地の最高峰と言われる田園調布があり、となり街の大森だって山王というお金持ちが住んでいる住宅街がある。法律事務所としては非常に商売になりそうなのに全然少ない。実に面白いと思います。任意売却の相談は多かったですね。先生はずっと蒲田で修業されていたわけではないですよね。


稲葉治久:違います。ここ12~13年ぐらいは蒲田近辺に住んではいますけれど。今、高木さんが言われたように、富裕層からお金を借りなければ生活が回らない人たちまで、先ほど人種の坩堝と言われましたけれど、まさに上から下までの層がまんべんなく暮らしている街ですね。


高木優一:どのような相談・依頼が多いのですか。


稲葉治久:それもまんべんなくです。相続から破産まで。民事ももちろんですが、刑事も多いです。


高木優一:先生の事務所の特長を一言で述べるとどうなりますか。


稲葉治久:今、事務所は私ともう一人、若手の弁護士の二人で切り盛りしています。やはり若さとバイタリティですかね。


高木優一:もう一人の弁護士さんは元澤先生ですね。それで「稲葉元澤事務所」という名前なのですね。



稲葉治久:元澤は私よりもっと若いんですよ。


高木優一:先生はおいくつなんですか。


稲葉治久:今年で41歳です。


高木優一:いや、ずっとお若く見えます。



雑多な「よろず相談」に応じるのが信条

高木優一:民事と刑事の比率はどのくらいですか。


稲葉治久:やはり民事の方が割合としては多いですね。刑事は多いといっても月に数件入るぐらいです。


高木優一:蒲田という土地柄、刑事もいろいろありそうですね。具体的にはどのような案件を扱うのですか。


稲葉治久:傷害事件や窃盗、性犯罪とか・・・ですかね。民事の方は多岐に渡ります。



高木優一:蒲田と言えば、下町気質が残っている昔からの街というイメージがありますよね。


稲葉治久:そうですね。確かに地元の皆さんのつながりは強い気がしますね。


高木優一:弁護士はやはりハードルが高いので、一般の人たちはなかなか相談に行きづらいという声もよく聞きます。


稲葉治久:そうかもしれませんね。私たちは初回相談は無料ですからどうぞ気軽に尋ねて来てくださいというスタンスではいます。来ていただいて我々と話をしてすれば、ああ、弁護士って意外と気さくでとっつきやすいんだと分かっていただけると思います。


高木優一:先生の方から街へ出て行くということもされていますか。



稲葉治久:そうですね。会合などに呼ばれれば積極的に参加するようにはしています。


高木優一:弁護士事務所を構えるとすれば、横浜で言えば裁判所の近くとか、関内とか、東京で言えば銀座、赤坂とか麹町などがステイタスのように言われていた時代は終わったように思いますね。これから、先生の世代の弁護士は街場で開くというのがトレンドになっていくように思います。まあ、大企業ばかりをクライアントにするというならば銀座に事務所を構えてもいいでしょうけれど、中小企業や一般の方たちの身近な問題を扱おうというのであれば、蒲田のような街はいいでしょうね。


稲葉治久:確かに中小企業の社長さんからさまざまな相談はいただきます。労働問題とか就業規則ができていないとか。まあ、就業規則は知り合いの社労士に繋ぐということになるんですが、そういった雑多な相談の窓口機能を果たしているといった感じです。


ハラスメントの実情

高木優一:いわゆる一等地に事務所を構えている法律事務所と比較しても、サービスの面では負けないぞという気概が感じられますね。


稲葉治久:ありがとうございます。クオリティやサービスの質に関しては、確かに負けない自負はあります。ただ、やはり大手の事務所はクライアントも大手が多いですから、案件の内容も我々の守備範囲を超えるものも当然存在します。たとえば、M&Aなどのマンパワーが必要な案件は手を出せません。


高木優一:それはそうでしょう。けれども、身近な法律問題に関しては、質的にも価格的にも負けないということですね。



稲葉治久:価格は間違いなく安いと思います。


高木優一:ハラスメントの相談なども最近は多いのではないですか。


稲葉治久:多いですね。セクハラとパワハラ、それに最近はスモーキング・ハラスメントなどもあります。タバコの煙を無理やり吸わされたという訴えですね。


高木優一:なるほど。ほかにこんなこともハラスメントになるのか、こんなことで裁判沙汰になるのかという事例はどんなものがありますか。



稲葉治久:よくあるのが、飲み会に誘われ、断っているのに強引に連れて行かれるなどというケースがありましたね。


高木優一:それで訴えてやるということですか。


稲葉治久:そうです。


高木優一:どのあたりまでがハラスメントなのか、その境界線を見定めるのが実に難しいような気がします。


稲葉治久:ハラスメントは、いじめとかいやがらせという意味ですね。相手の発言や行為に対して不快な思いをする、不利益を蒙るということがあればハラスメントになりますよということです。あと、パタハラというのもありますね。



高木優一:パタハラですか。


稲葉治久:パタニティハラスメントのことです。いわゆるイクメンの男性が対象ですね。育児を理由に休暇を取ったり早く帰ったりすることに対し、同僚や上司が嫌がらせをしたり嫌な発言をしたりすることです。


高木優一:なるほど、マタニティではなくパタニティか。経営者としてはどのような点に気をつけたら良いのでしょう。


稲葉治久:ハラスメントに対する社員への啓蒙活動はもちろんのこと、内規でこのような行為に及ぶと処罰の対象になるとの旨をしっかり明記し、相談の窓口を設けるといった対策はしておいた方がいいですね。裁判ではハラスメント行為を行った人は当然ですが、会社側や役員なども損害賠償の対象になることがあります。


高木優一:ハラスメントを軽く見てはいけないということですね。今日はどうもありがとうございました。