まちの仕事人インタビュー
地域のニーズに合わせた密着型医療の実現に向けて
済生会神奈川県病院 院長 長島 敦 (ながしま あつし) さん インタビュー

1959年東京都渋谷区生まれ

浜松医大卒業後、慶應義塾大学の外科学教室に入局

様々な研修を重ね、1991年から済生会神川県病院に勤務

2007年以降は済生会横浜市東部病院に移り、外科部長や副院長を歴任

2016年から済生会神奈川県病院の院長に就任。

現在に至る。

まずは経歴をお聞かせください?

1959年に東京の神宮前で生まれました。父親が自衛官のため、さまざまな場所を転々とする幼少期を送りました。浜松医大を卒業後、慶應義塾大学の外科学教室に入局しました。そこで1年間研修した後、浜松赤十字病院に1年間出張という形で入職しました。


自分の医者人生の中で、このときが一番きつかったですね。その当時の指導担当の先生が大変厳しい方で、頻繁に電話がかかってきて365日24時間監視されているような感じでした(笑)手術中の手技などの指導も厳しかったですね。この1年間の経験はすごく辛かったですが、そのおかげで今の自分があると今では思っています。


その後は慶應義塾大学に戻ることになります。驚かれると思いますけど、この時期は無給だったんですよ。今はそんなことないんですけど、当時はそんなシステムだった。だから、生活費を稼ぐためにパートと言って、外の診療所や病院でアルバイトするんです。この下積みがあったことでいろいろ勉強させてもらいました。


そんな専修医としての生活を3年間続けたんですが、同時に博士号を取るために研究しなければなりませんでした。当時自分の研究室の中ではもっとも博士号が取れないということで有名だった人工食道の研究をしました。気持ち的には取れなくてもいいやという感じで取り組んでいたんですけど、結果的に運よく博士号を取りました。


■すごい!!大変なご苦労があったんですね・・・その後はどうされたんでしょうか?


1991年に当院済生会神奈川県病院に赴任しました。入職当時、当院は交通外傷などの急性期医療を扱っていました。そこで十数年ほど努めて、2007年に開院した済生会横浜市東部病院に移り外科部長や副院長を務めさせていただきました。2016年に前任の院長のご体調の問題もあり、神奈川県病院の院長として急遽就任することになりました。


■突然の就任だったんですね。


もともと、2007年に東部病院が開設された際に、それまで当院で行ってきた急性期医療の機能のほとんどが東部病院に移行されました。すべての機能が移行完了した際にはなくなる予定だったんです。


ところが、この地域に急性期医療に対応できる病院がなくなるのは困るということで続けるべきだという声が上がりました。結果、頂いた意見に応える形で存続が決まりました。現実には急性期医療が東部病院に移行していたので、中心となるのは慢性期、回復期のリハビリを中心とした機能です。


そこで、医師会の方々のお力を借り病床数を増やし、伊豆にあった慶應関連のリハビリテーションチームを引き取る形で回復期、慢性期中心の病院として長く運営してきた状態です。東部病院と連携しながら、高度な急性期医療は東部病院で、リハビリテーションなどの回復期医療と慢性期医療は神川県病院という形で機能分化させていました。


2016年に新棟西館がオープンし、院長に就任したのもきっかけとなり、再び地域のニーズに応えるために急性期医療を神奈川県病院でも取り組むようにシフトしていきました。


就任されてからどんな取り組みをされてきましたか?

医療も公共性が高い事業とはいえそこは経営ですので、収益の事を考えると戦略が必要となります。私が院長に就任するまでの10年間は救急患者・救急車の受け入れは全く出来ませんでした。


しかし、地域の患者様や医師会の先生方とコミュニケーションをとっている中で、実はそういった最もニーズの多い軽症、中等症の救急患者様を受けれ入れてくれる病院がないという問題に直面しました。そこで、まずはそこに力を入れていくしかないと決断しました。


今までの慢性期・回復期だけではなく、軽症、中等症の救急疾患の患者様を適切に受け入れる方向に移行していきました。現在では、急性期の患者様様の中でも特に、高齢者の救急にも力を入れています。当院は長年の経験から回復期のリハビリテーションチームが充実しているので、治療と同時にリハビリを行うなど、患者様のトータルサポートが出来るという自信があります。


東部病院との役割分担などの連携を基に、より地域の特性に合わせた医療体制を築けていると考えています。紆余曲折ありましたが今では地域密着型医療を提供していることが当院の特徴と言えると思います。



済生会神奈川県病院  外観



今後の医療業界の在り方に対してお考えがあるようですがお伺い出来ますか?

医師としての在り方は医療に携わる者がしっかりと考えないといけない局面に来たのではないかなと思います。現在だと、大学で研究する医者、臨床医として働く医者、基幹病院で働く医者など様々ですが、その多くが高度な医療のスキル習得に目が行きがちです。それ自体は決して悪いことではないのですが、今後高齢社会になっていくにつれてそういった高度医療を担当する医者のニーズは減っていくと思います。


逆に必要となるのが複数の臓器にまたがる複数の疾患を総合的に見ることが出来、その人の人生哲学や生活環境まで考え、ある程度心のケアまでできる医者だと考えています。


しかし、今の医学界の方針だとそういった医者の希望者は少ないです。大学教育はスペシャリスト重視で、ジェネラルに患者を診ることができる医者というのはあまり認められていないというのが現状です。この患者様を総合的に診る医療は現在では主に開業医の先生方が担っていらっしゃいますが、診療所では診察は出来ても入院設備がないので治療はごく軽症以外は行えませんからね。


だからこそ、こう言った状況を変えて、地域密着型で、患者のことをトータルでサポートできるような医者を育て、そうした理念を持つ病院を増やしていくことが今後の医療業界としての課題だと考えています。

インタビュー後記

長島院長は非常に気さくな方で、終始笑いが起こる和やかな雰囲気の中でインタビューをすることが出来ました。地域や医療業界に対する課題について真剣に向き合ってこられた姿は、想像の中の病院の院長とは一線を画するものに感じます。地域に密着し、その土地に合った医療体制を敷いていこうという想いは病院のスタッフの皆様にも浸透し、今後もより良い医療を提供していただけるものと確信しています。既に神奈川県病院に通われている患者様もそうでない方も、こうした想いで医療サービスを提携されている病院なんだなと感じることが出来たのではないかと思います。ご体調に不安がある方は是非神奈川県病院で診察を受けて見られることをお勧めします。

お問い合わせ

社会福祉法人  恩賜財団  済生会神奈川県病院

〒221-0821

神奈川県横浜市神奈川区富家町6-6

TEL:0454321111

FAX:0454321119

HP:https://www.kanagawa.saiseikai.or.jp/

*お電話相談の際、『区民ニュース』の記事を読みました。とお伝え下さい。