まちの仕事人インタビュー
【「ジュニアさん」の評価を高めた新規開拓 3代目が重ねた社内改善】
石塚株式会社 代表取締役社長 熊谷 弘司 (くまがい ひろし) さん インタビュー

千代田区に本社を構える創業70年の老舗企業。飛沫感染防止ビニールシートの取り付けを主力としながら、ビニールカーテンの製造・加工・施工を通じて、産業資材の分野で確かな実績を誇る。三代目・熊谷社長は、時代の変化を読み解きながら家業をアップデートし続けている。

 

■「継ぐ気はなかった」青年が、社長になるまで

 

「正直、継ぐ気はありませんでした」

 

そう語る熊谷社長。中高生の頃は家業を継ぐことに対する反発心のようなものがあったそう。創業者の祖父の葬儀の場でも関係者に「会社を継ぐことになったらここにいる社員みんなとその家族の生活も背負うわけだから大変だね」と声をかけられた際に、プレッシャーを感じていたという。今までは感情的に継ぎたくないという考えであったが、その葬儀の一件を機に能力的に出来ないという理由に変わった。

 

父から継げと言われたことはなかったが、就活時期になると二代目である父と話す機会があり、継ぐ気はないということをはっきりと伝えた。その際に父と話している中で、当時第一志望だったゲームソフト開発の会社への就職が決まれば継がない、もし受かること出来なかったら継ぐと覚悟を自身で決めたという。結果として第一志望の会社には行けず、会社を継ぐことを決意。アキレス株式会社で4年間修業し、2010年に家業へ戻った。

 

熊谷氏の「自分で決めた」という覚悟が原動力となり、2018年に正式に三代目社長に就任し、現在7年目を迎える。

 

■材料卸→加工→施工  ニーズの進化と共に歩む会社の変遷

 

創業当初は塩化ビニール素材の卸売業としてスタート。二代目の代にはニーズに合わせ加工も加わり、日用品は売上の約7割を構成。三代目の現在では、施工事業のニーズが拡大し、全体の60%を占めるまでに成長した。

 

ビニールカーテンの用途も時代とともに進化。今では空調効率化や防虫対策など、業種問わず幅広く導入されている。なかでも、昨今注目されているのが、熱中症対策として導入が進む「サーモバリアフィット」。義務化の流れもあり、鉄鋼、金属、食品工場などからの引き合いが急増中だ。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000008.000120414.html

 

「昨年対比150%を目標にしていたのですが、半年間で既に300%近くまでいきました。2025年6月から企業側で熱中症対策が義務化となり、その対策を怠ると企業は処罰の対象にもなる。だからこそ、提案の重要性も高まっています」

 

■社長就任前後の挑戦と変化

 

「2年後に社長は変わる」

 

そう取締役会で二代目が発したという。当時の熊谷氏も他の取締役も本当に変わるは思っていない部分もあった。

 

熊谷氏が他の取締役からの信頼が得られていなければ、事業承継は大いに難航する可能性があるがその心配は無用であった。実はある出来事をきっかけに熊谷氏に大きな変化があった。

 

石塚の主力商品の一つに手帳カバーがある。入社し間もないころ、当時販売していた手帳カバーはいわゆるビジネス手帳で黒色のものがメインであったが、市場はカラフルないわゆる「おしゃれ手帳」が流行していた。今後マーケットの拡大を考え「おしゃれ手帳」の販売に注力すべきということを営業の責任者に伝えたが、「結果を出してから物を言え」と一蹴されたとのこと。

それからというもの熊谷氏は自身で積極的に顧客開拓をし、取引先を増やし販路拡大に尽力した。そこから社内の熊谷氏に対する見方や信頼が大きく変化し、周囲の人間が協力的に動いてくれるようになったという。

 

取締役に就任した際も周囲からの信頼があったからこそ、スムーズに就任することが出来たと語る。

 

社長就任後も「うまくいかないのは当たり前」というマインドでトライ&エラーを繰り返し、苦労を苦労とは思わないという姿勢が事業承継後、会社を大きく飛躍させている要因である。

振り返れば「父の引き際が見事だった」ということは自慢の一つでもあると語る。

 

 

■「永続する会社」へ向けて——ビジョンと経営哲学

 

「会社を100年企業に育てたい。そのために、100年・100人・100億という目標を掲げています」

 

素材としてのビニールが持つ価値を信じ、「ビニール=環境に悪い」という偏見を払拭したいという強い想いもある。

 

「正しく使って、正しくリサイクルすれば、ビニールはとても優れた素材。もっと良いイメージを世の中に伝えていきたい」

 

さらに、ファミリー企業のイメージ向上にも力を入れている。

 

「事業承継って“うまくいかない話”ばかり取り上げられる。でも、ちゃんとバトンが渡せて、素晴らしい企業もたくさんある。そのモデルケースになりたいんです」

 

■人と組織の成長へ——経営計画書と理念浸透

 

経営書籍で知られる一倉定氏に影響を受け、経営計画書を作成。毎週金曜日の朝礼で、社員に理念の浸透を図っており、毎年11月には経営計画発表会も社員向けに行っている。

 

「事業承継はゴールのない、駅伝のようなもの」このように考えるようになってから社員への理念浸透に力を入れている。

 

社長就任当時は社員のモチベーションを上げようと一人一人にアプローチを図り、時には飲み会を開いたり、と積極的にコミュニケーションを取っていた。

ただその結果うまくいかないことも多々あり、アプローチ法を変えた。

 

理念に対する理解と共感ということはとても大切であるが、共感は他人にはコントロールできない為、理念の浸透においては理解してもらうことのみにつとめ、共感という感情面は排除した。その結果社員数人の離脱もあったが、それも「必要な進化の一部」として受け止めている。

 

2023年には「千代田区ビジネス大賞」を受賞。経営計画書の内容が高く評価された。

 

■これからの挑戦——家業×コンサル、新規事業へ

 

「これからは、事業承継のコンサルティングにも挑戦していきます。実は父の代で、家族崩壊の危機がありました。僕たちはそうなりたくない。だからこそ、“託す側”と“継ぐ側”の両方に寄り添える支援をしたい」

 

こう語る熊谷社長の想いには「ファミリー企業」のイメージ向上への貢献というものがある。

 

周囲の中小企業を含め、事業承継に失敗している会社は多く存在し、中には後継者が決まっていたのに失敗をしてしまったというケースも見られる。

日本の企業の99,7%は中小企業であり、その中でもファミリー企業の割合は非常に高い。

今後日本の経済を支えていくであろうファミリー企業を支える為にも現在、年内の新規事業開始を目指して準備中。

未来のファミリー企業の希望の光になるため、熊谷社長の挑戦はこれからも続いていく。

 


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