Photo:長谷部ナオキチ

SDGsというと、クリーンエネルギーや地球温暖化対策など、環境問題を思い浮かべがちです。しかし、17項目からなる持続可能な開発目標は、貧困や飢餓の撲滅、ジェンダーの平等、人や国の平等など、人権に関わるテーマが多数を占めています。アジェンダ2020という10年後のゴールを目指す活動も様々な分野で広がってきました。そうした中、神奈川弁護士会がSDGs推進活動に注力しているとの噂を聞き、会長の高岡俊之氏にインタビューさせていただきました。

SDGsは弁護士の仕事と親和性がある開発目標

高木 優一神奈川県の弁護士会は、今SDGsを前面に押し出していると伺っています。これは本当でしょうか?


髙岡 俊之そうですね。神奈川県弁護士会は、2年前、令和2年ですね。神奈川県とのあいだでSDGsについての推進協定を結びまして、ともにこれを進めていくと言う点で合意ができております。私も今、会長として、会を上げて実践している所存です。



高木 優一:県と協定されているんですね。なるほど。ところで先生、SDGs…最近よく耳にはするのですが、わかっているようでそうでない人も多いかもしれません。私もお恥ずかしながら、聞きかじり程度にしか理解しておりません。先生に伺う話でもないかもしれませんが、我々のためにSDGsとはなんぞや、と言うのを簡単にレクチャー願えますでしょうか。


髙岡 俊之:はい。これはですね、2015年の国連サミットで採択されたサスティナブル・ディベロプメント・ゴールズ、いわゆる持続可能な開発目標のことで、全部で17の項目があります。2020年には目標達成の具体的なアクションプランが示され、国際社会全体で取り組む開発目標となっています。


高木 優一:私の勝手な思い込みかもしれませんが、SDGsと言うと、リサイクルとかクリーンエネルギーとか環境保護などの取り組みを指しているようなイメージがあります。弁護士会でSDGsと言うと、どのようなことをされているのでしょうか。


髙岡 俊之:確かに「持続可能な開発目標」と聞くと環境をイメージする方は多いと思います。もちろん環境問題は非常に重要なテーマですが、その他にも、貧困をなくすとか、平和と公正、飢餓をなくす、ジェンダーの平等など、法律が関係することや、法の整備に関わる項目が掲げられているんですね。そしてそれは、私たち弁護士が長年取り組んできた課題でもあるんです。


高木 優一:なるほど。人権問題や、差別のない社会など人に関わる部分は、それこそ先生方のご専門ですものね。



髙岡 俊之:我々弁護士会というのは、人権擁護と社会正義の実現をモットーにしておりますので、その観点からしましても、SDGsは非常に親和性がある課題といえます。


高木 優一:弁護士の先生方のお仕事が、そもそもSDGsの項目と一致しているわけですね。


髙岡 俊之:はい、そうなんです。加えてですね、弁護士会の中にも環境委員会というのがありまして、その分野でも我々は、SDGsの目標課題を念頭に置いて取り組んでおります。


高木 優一:そう考えますと本当に、先生が先ほどおっしゃいました通り、弁護士という仕事とSDGsは、親和性があるというか同調している感じすらしますね。


髙岡 俊之:はい。そうした点で考えても、我々弁護士は、SDGsに即して活動する事で仕事の幅が広がっていくと思います。本年神奈川弁護士会は、これを重点課題として実践してまいります。



SDGsウォッシュにならないための不言実行

高木 優一人権や差別のない社会と言う点で言いますと、神奈川では川崎は南部の方に外国人の方が多く居住されています。差別やヘイトの問題が全国ニュースにもなりました。しかし、もうそういう時代ではない、と。SDGsの観点からしたら、人種や差別の垣根を越えて、仲良くやっていきましょう、ってことですよね。


髙岡 俊之そうですね、とにかく「誰一人取り残さない」と言うことで、少数派と言われる人たちの平等を守る、つまりはダイバーシティなんですね。それは、非常に大切だと思います。


高木 優一:何か具体的な目標というか活動計画みたいなものはあるのでしょうか?



髙岡 俊之:そういったものは、実は公言しておりません。SDGsウォッシュはご存知でしょうか?


高木 優一:SDGsウォッシュですか?  初めて聞きました。どういった意味ですか?


髙岡 俊之:SDGsに取り組んでいると謳いながら、実際はやっていなかったり、やっていても実態が伴っていないようなケースのことを指します。これが今、非常に増えているんですね。バッジをつけていても、声高に唱えていても、見せかけだけというところが少なくありません。


高木 優一:不言実行に価値があると言うことでしょうか?


髙岡 俊之:実際に動かなければ意味がないと言うことですよね。目標を掲げたり、公言することも大事ですよ。でもウォッシュがあまりにも増えています。当弁護士会では、公言せずに実践しよう、ということでやっています。


弁護士業の傍ら、舞台役者もされている髙岡会長。

台本を見せていただきました。すでに10作以上の出演経験がおありだとか。


高木 優一:なるほど。ではそのSDGsに向けて、弁護士会の中でも変わってきたことというのが実際にはあるのでしょうか?


髙岡 俊之:そうですね、あることはあるのですが...たとえばユネスコの国際会議に参加したり、さまざま部会が立ち上がったりしています...ただ弁護士というのは、もう憲法ができて以来、人理活動をやってきていますので、何かが大きく変わったと言う感覚は正直ありません。SDGsに関するものは、それこそ昔から無意識のうちにやっていますので、我々そういった発想は、元々身に付いているものだと思っています。


高木 優一:声高に、それこそウォッシュのように掲げるのではなく、実践が大事ということなんですね。


髙岡 俊之:その通りです。


高木 優一:それが自然に出来るような社会にしていかなければなりませんよ、といったところを啓蒙していく意味合いもあるわけでしょうか?


髙岡 俊之:おっしゃる通りですね。人権活動とか、社会正義ということを、なんて言いますか、照れ隠しなく仕事としてできる仕事なんですね、弁護士というのは。身分も保証されているというか、国から資格が剥奪されないんですね。それができるのは、弁護士会だけなんです。


高木 優一:アンタッチャブルなのですね。



髙岡 俊之:はい。何故かといいますと、人様の人権を国から守らなければならない時があります。そういった使命があり、主義主張がそのまま仕事になっているという、数少ない仕事のうちのひとつだと思っています。


高木 優一:ということは、先生は国に対してもファイティングポーズを取ってくださる?


髙岡 俊之:もちろん必要とあらば。正直疑ってかからないとダメですよね。上手に騙されちゃうこともありますしね。騙すのは業者や悪人だけではなく、国や公的機関のようなところが、うまく懐柔してくるようなことってありえますからね。疑ってかからないといけませんよね。


高木 優一:確かにそうですが、そんなことを言ってくださる先生はなかなかいないと思います(笑)


マイノリティーの方々の権利を守るために

高木 優一少し話が逸れましたが、神奈川県弁護士会の活動について改めて伺わせてください。SDGsというと、企業が取り組む環境問題に目が行きがちですが、人権や平等、貧困、ジェンダーの問題など、弁護士の先生方が普段取り組まれている問題と同調している、という…


髙岡 俊之:環境に関する企業の取り組みは、打ち出しやすいしわかりやすいので話題になるのだと思います。でも現代は企業にとっても人権は重要な課題で、人権に眼差しを向けていない企業は成功していないというデータも出ています。


高木 優一:パワハラやモラハラ、〇〇ハラスメント、以前なら取り沙汰されなかったようなことが問題になる世の中ですもんね。確かに企業は人権について考え方を変えていかなければならない。


髙岡 俊之:採算や効率だけを考えたら、どうしても切り捨てられる人が出てきます。そういうことをちゃんとやろうと思ったら、意識改革も必要ですが、お金もかかるんです。だけどそれを惜しんではいけないと思います。一見無駄なように思えても、人を守るためには必要なことがたくさんあります。そういった視点も持たなければならないと思います。


高木 優一:それは企業だけではなく、世の中全体に言えますね。ジェンダーの問題についてはいかがでしょう?いろいろと取り組まれておられると伺っていますが。


髙岡 俊之:当弁護士会の人権委員会では、これまでは両性の平等、いわゆる男女平等の問題を取り扱う「両性の平等部会」という専門部会がありましたが、2年ほど前から「すべての性の平等部会」と名称を改め、この問題に注力しています。マイノリティの方々の権利を守ることは、SDGsの大きなテーマである「誰一人取り残さない社会の実現」に向け、我々の目指す未来でもありますから。


高木 優一:貧困の問題も重要ですね。



髙岡 俊之:貧困が重なって貧困が増える、たとえば夫婦が離婚してシングルになる、お子さんがいる、お金がない、ネグレクトになっちゃう、そうやってどんどんどんどん少数派、マイノリティの人たちの人権が損害されています。それに関わるいろんな専門家の弁護士を一挙に集めて法律相談会をやろう、という大きな動きがあります。


高木 優一:なるほど、そういった活動を今後されていくということですね。


髙岡 俊之:はい、もう実は日程も決まっていて、それこそがまさに「誰一人取り残さないための法律相談」になると思います。だけど「こんなにやってますよー」というアピールはしない。広報はしますけど、SDGsだからやってます、といった言い方はしません。


高木 優一:不言実行ですね。よくわかりました。私のラジオ番組や関係するメディアでも応援させていただきたいと思います。本日はお忙しい中、ありがとうございました。また機会があればお話を伺わせてください。


髙岡 俊之:こちらこそありがとうございました。どうぞよろしくお願いいたします。



神奈川県弁護士会

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