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事業承継型M&Aにおいて株式100%を買い集める必要がありますか。
(2年前の記事です) 掲載日:2023/04/24
都内で小さな出版社(株式会社)を経営しています。
身内に後継者がいないためM&Aにより事業承継をしようと考えています。
M&Aで事業承継を行った先輩経営者に話を聞いたところ、株式は100%譲渡が基本と言われました。
当社では私が60%の株式を持っていますが、残りは親族8人に5%ずつ分配しています。
100%株式を買い集めた方がよいでしょうか。そもそもなぜ100%譲渡が基本なのでしょうか。
※ 相談者のプライバシーに配慮し、実際の質問内容を一部改変して掲載している場合がございます。ご容赦ください。

私がお答えします。
一般的に買い手はA様の会社の発行済株式の100%取得を希望します。したがって、可能な限りA様において株式を買い集めたほうがよく、そうしなければ買い手がつかない可能性があります。
事業承継においてM&Aを利用する場合、買い手は譲受後の以下のリスクに鑑み、A様の会社の発行済株式の100%取得を希望します。
1 既存株主の反対により株主総会特別決議が否決されるリスクがある。
60%の株式保有では、買い手の賛成のみで株主総会決議(出席株主の3分の2以上の賛成が必要)を可決できません。既存株主が団結することにより否決される可能性もあります。
そのような状況は不安定ですし、スピード感も失われます。
2 既存株主から責任追求されるリスクがある。
株主であれば、役員の経営上の重大なミスについて責任追及が可能です。
また、経営上の重大なミスが放置されるようであれば、株主は株主代表訴訟の提起により更に責任追及が可能ですので、訴訟リスクを抱えることになります。
3 既存株主から少数株主権を行使されるリスクがある。
少数株主権とは、一定割合または一定数以上の株式を保有する株主のみが行使可能な権利です。
たとえば非公開会社では、総株主の議決権の1%以上の議決権を有する株主は、一定の事項を株主総会の目的とすることを請求できる株主提案権を有します。
また、総株主の議決権の3%以上又は発行済株式総数の3%以上の株式を有する株主は、株式会社の会計帳簿の閲覧請求権を有しています。
法律で認められた権利とはいえ、これらの少数株主権を行使され続けると、買い手において気持ちの良いものではありません。
これらのリスクは既存株主との関係が良好のうちは取るにたらないものかもしれません。
しかし、M&A後の経営の舵取りがうまくいかない場合、既存株式との間で軋轢が生じてしまい、上述のように既存株主が経営に口を出したり、嫌がらせ的に権利行使をしてくる可能性は否定できません。
買い手は、これらのリスクを回避するために、M&A契約の時点で100%の取得を希望するのです。
したがって、売り手であるA様は、買い手の希望に応じて可能な限り株式を買い集める必要があると言えます。
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