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株券を交付しなかった株式譲渡
(1年前の記事です) 掲載日:2023/08/05
M&Aを考えている経営者(70代)です。
約30年前、私の右腕として頑張ってくれていた社員Aを取締役に登用した際、私が持っていた我が社の全株式1000株のうちの10%(100株)をAに譲渡しました。
そのときは株券を交付しました。
そして、ちょうど10年前にAが退任する際、Aは、新たに専務取締役に登用したBに、Aの所有する株100株を譲渡しました。
このとき、AとBは、平成18年の新会社法の施行により我が社が株券不発行会社になったと認識しており、AからBへの株式譲渡について株券の交付はなされませんでした。
Aは2年前に他界し、株券の所在や、相続がどうなったのかなどについてはわかりません。
この場合、100株の株主は誰なんでしょうか。仮にAである場合、どうすればよいでしょうか。
※ 相談者のプライバシーに配慮し、実際の質問内容を一部改変して掲載している場合がございます。ご容赦ください。

#100株の株主はAの相続人であるといえます。
この場合、AからBへの株式譲渡において株券の交付がありませんから、当該譲渡は無効であり、Aが株主のままとなります。
そうすると、Aの遺産分割の内容次第ですが、仮に法定相続分どおりに相続していれば、Aの相続人が株式を所有(共有)している状態にあるといえます。
平成18年5月1日の新会社法の施行により、それ以後に設立される会社は原則株券不発行会社となりました。
しかし、それ以前から存続していた株式会社に関しては、株券廃止の手続きをしない限り、株券発行会社のままです。
株券発行会社の場合、株式譲渡の際に株券の交付が必須となり、それを欠いた場合、株式譲渡は無効となります。
したがって、AB間の株式譲渡は無効といえます。
この場合、株券交付を欠いた株式譲渡を治癒するためには、Aの相続人を調査し、株式譲渡をやり直すことが考えられます。
しかし、Aの相続人間の関係や、遺産分割の内容次第では相続人全員と話をすることが難しいという場合もあり、うまくいかないということもあります。
その他にも、Bによる株主権の時効取得という法技術的な取扱も考えられますが、最高裁判例や通説があるわけではなく、不安定な状態になるといえます。
そうすると、AからBへの株式譲渡の治癒を諦め、M&Aでは株式譲渡を利用せず事業譲渡など他のストラクチャーを選択することも検討すべきです。
以上のように、株券交付を欠いた株式譲渡がある場合、法的にシビアな検討が必要となります。
仮にM&Aをする際にこれを隠したとしても、買い手の法務デューディリジェンスにより容易にみつかるでしょう。
弁護士に相談し、対応を協議することをおすすめします。
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