まちの仕事人インタビュー
前職はNHKディレクタービジネス×リーガルのハイブリッド弁護士
東京丸の内法律事務所 パートナー弁護士 上村 剛 (うえむら ごう) さん インタビュー

東京丸の内法律事務所パートナー弁護士。1975年大阪府東大阪市生まれ。東京大学法学部卒業後、日本放送協会(NHK)入局。報道番組のディレクターとして約7年勤務。NHK時代は、おはよう日本、クローズアップ現代、ニュース7などの報道番組の制作を経験。その後、弁護士の仕事に興味をもち、東京大学法科大学院に進学、弁護士の道へ。弁護士登録後、長島・大野・常松法律事務所に入所。証券化やシンジケートローンなどのファイナンス関係やM&A、知的財産関連の実績を積む。その後、東京丸の内法律事務所に入所。企業顧問、倒産・事業再生、知財案件を専門分野として活躍中。趣味は旅行、散歩。最近は1日に1.2万歩のウォーキングを日課としている。

上村さんは大学を卒業後NHKに入局しています。東大法学部からNHK就職というのは珍しいと思いますが、なぜNHKに就職されたのでしょうか。

いま振り返ると育った環境の影響が大きいように思えます。私の両親は新聞記者だったのですが、両親だけではなく親戚夫婦も新聞記者経験があるという環境で育ってきました。周りの大人たちにも新聞社や出版社などメディア関係の人が多く、雰囲気に馴染みがありました。大学3年生の後半だったと思いますが、進路に迷っていたところ、友人からNHKはどうかと勧められ、なんとなくしっくりくるものがあったので受験しました。ちなみに、法学部に入学したものの、あまり法学に興味を持てず、法学部の単位を取りつつも、文学部の単位なども取ってなんとか卒業できたという裏話もあります。当時はまさか自分が弁護士になるとは思っていなかったですし、司法試験の勉強もまったくしていませんでした。

NHKで約7年間、ディレクターを経験された後、弁護士に転向されています。十分に社会人経験を積んでからの業態変化ですが、なぜこのタイミングで弁護士にジョブチェンジしようと思ったのでしょう。

もっと深く社会に関われる仕事をしたいと思ったからですかね。その当時、私はニュース7を担当していました。ディレクターの仕事はとても幅が広くて、取材からロケ、編集、放送まで、テレビ局の仕事を一通り担当します。私自身も局にいない時間も多く、忙しい毎日を過ごしていました。ところが、ニュース7を担当してからは、一転して一日中ニュースセンターにいることが多くなりました。取材などで外に行く時間が減った分、自分自身の進路を考える時間が取れるようになったのです。そんなとき、ロースクール制度が始まるという情報が入ってきたのです。この当時のニュース7は、拉致被害者の帰国やイラク戦争など大きな事件があり、かなり忙しかったのですが、夜はニュース7の同僚たちと連日のように遅くまで飲み歩いていました。飲み会の席で、同僚たちと、勢いで「ロースクール受けてみようぜ」と盛り上がったことがロースクール受験を意識したきっかけです。半ば冗談のように始まったのですが、せっかくなので受けてみようとの気持ちもあり、気が付くと、ものすごく久しぶりに学生時代の教科書を開いたりしていました。ただこのときは、ロースクールに合格したものの、なんとなくテレビ局でやり残したようなものがある気がして、また、仕事もとても面白かったので、結局、合格を辞退しています。


せっかくロースクールに合格したのに入学しなかったのですか。その後、どのような心境の変化があって再度ロースクールを受験し、弁護士になったのでしょう。

企業と法律が密接に結びついていることが面白いと感じたきっかけがあったからです。合格を辞退した翌年のことです。当時は電力会社のトラブル隠しなどもあって、企業にコンプライアンスという概念が浸透しはじめた時期で、コンプライアンス浸透のための企業の取組みを取材する機会がありました。企業の法務部に行くと、どの企業でも「どうやって社員にコンプライアンス意識を持たせるのか」に苦労していました。法律やルールを守ることは当然のことではあるのですが、これがうまくいかないと、最悪の場合、会社が営業停止や倒産に追い込まれ、従業員が路頭に迷ってしまう可能性がある。法律と企業の生死が密接に結びついていることを意識し、法律への興味が高まってきました。就職活動を考えていた大学生のころ、山一証券の自主廃業など、これまで安泰と思われていた会社が消えていく姿をタイムリーに見ている世代ですので、こうした記憶があることも一因だったかもしれません。こうしたことがあって、ロースクールを再度受験。運よく2度目の合格ができたので、これは一種の「お告げ」と考えてロースクールに進学しました。2年で卒業して司法試験を受験し、司法修習を経て弁護士登録をしています。

NHKでの経験が弁護士業務に生きていると感じることはありますか。 

ありますね。番組制作では、取材して、ロケして、編集して、オンエアにもっていくわけですが、弁護士として依頼者から話を聞いて、それを法的に分析して、主張なり分析なりにまとめていくことと、通じる面があるように思います。ただ、頭の使いどころは全く異なりますね。取材のときに比べて、弁護士になってからは、企業のより内部的なこと、特に金銭関係の話の比重が多くなったように思います。倒産や事業再生の案件を通じて、必然的に会社の資金繰りや決算内容などの経営の根幹に関わる情報に接することが多いので、そのように感じるのかもしれません。NHK時代はいつも新しいことを追いかけている感じで、世の中の流れを感じられるところが楽しかったので、弁護士の仕事と比較してどちらがいい悪いという話ではまったくないのですが、情報の深度という意味では今の方が深いと感じます。また、知的財産権、中でも著作権を専門の1つにしているのですが、自分がNHK時代にやっていたことが、著作権の視点から見るとどのように整理できるのか、いつも興味深く感じています。実際の現場での番組制作の経験と法律が融合するように感じるところで、この点は今後も深めていきたいと考えています。


一見まったく異なるキャリアにも共通する部分はあるのですね。倒産、事業再生を多く取り扱うようになった理由を教えてください。

ある債権者集会に参加したことがきっかけです。リーマンショック後、証券化案件のオリジネーターが倒産した事件を担当する機会がありました。その倒産事件の債権者集会に、私は債権者側の代理人として出席したのですが、破産管財人が債権者集会を切り回しているのを見て、これはやりがいがありそうだと興味を持ったのが大きかったと思います。あとは、もう少しクライアントや現場に近い仕事がしたいと思ったからですね。前の事務所はいわゆる大手渉外事務所でしたので、クライアントとの連絡もメールが中心で、事務所の外に出ることはあまりありませんでした。もともとメディアで働いていて、現場に出るのが好きだったこともあり、あちこち行ける環境の方がよいと思っていたのです。倒産・事業再生は、実際に企業のオフィス、工場などに行って現状を確認したりすることも多く、まさに「現場仕事」ですので、私の興味関心の方向性と一致しているのではないかと思います。

依頼される案件も多く全案件を受けるのは大変と思います。依頼の受託可否の判断軸はあるのでしょうか。また、仕事をする上で大切にしていることも教えてください。

基本的には断らないです。料金も会社規模に応じてかなり柔軟に対応しています。ただ、法律的な根拠がないのに、弁護士の肩書を利用して無理な要求をしようとする依頼は受けないようにしています。こういう案件を受けてしまうと、相手方だけでなく、裁判所などの第三者にも迷惑をかけることになりかねません。

また、私が仕事をする上で大事にしているのはバランス感覚です。弁護士ですので、クライアントの意向に100%添えるように努力するのですが、最終的にクライアントの思い通りになるとは限りません。そのような場合に、どのような解決であればクライアントにとって最善で、かつ相手方その他の関係者にとっても受け入れられるのか、関係者のバランスを常に考えています。これが仕事をする上で私が大切にしていることのひとつですね。

こういうクライアントには特に相談をしてほしいというのはありますか。

漠然とした不安を抱える方にはぜひ相談をしてほしいです。弁護士というと、いざというときに頼るものというイメージがあるせいか、企業、個人を問わず、最後の最後まで自分で頑張ってみて、だめだったら弁護士に依頼する方が多いように思います。もちろん、最後まで頑張ることは素晴らしいことですが、早期に相談いただくことで、多様な選択肢がご提案できることもあります。たとえば経営不振のケースであれば、早い段階でご相談いただくことで、破産以外の再生の方法をご提案できるかもしれません。事業を残せるのであれば、それに越したことはないので、漠然とした不安の段階でもためらわずに相談していただきたいと思います。事業規模の大小や事業の種類は問いません。

漠然とした不安がある人は上村さんに相談すべきですね。最後に読者にひとことお願いします。

サラリーマン経験がある程度長いせいか、手前味噌ながらクライアントから「企業の立場を理解したうえで動いてくれて助かる」と言われることが多いです。特にテレビ業界の方からは、「こっち側の人ですね」と言われるので、なにか「におい」のようなものがあるのかもしれません。サラリーマン経験があることも私の個性の1つだと思っていますので、こうした経験を生かしたアドバイスができればと思っています。法律でできることには限界がありますが、自分が置かれている立場が法的にどのような状況なのかを知ることで、検討や交渉の際に、交渉カードや、心のよりどころにすることができます。少しでも不安をお持ちの方は、一度ご相談いただけると嬉しいです。


インタビュー後記

ディレクターとして多忙を極めつつロースクールの勉強をして一発合格してしまう上村さん。その後いわゆる四大事務所に入所し、現在の事務所でパートナー弁護士まで上り詰めている姿だけをみると委縮してしまう方もいるかもしれません。しかし、安心してください。上村さんは非常に物腰柔らかく、クライアントに徹底的に寄り添ってくれる弁護士です。また、レスポンスが極めて速い。取材のやり取りでも多忙な中でもすぐに連絡を返してくれますし、クライアントにもこういう対応をされているのだろうと実感します。本人曰く関西人なのでとのことですが、一秒でも早いレスはクライアントにとってありがたいことだと思います。上村さんは、仕事にも隙がなく、スピード感も早い。さらに人格者でもあるというすべてを兼ね備えた弁護士です。人柄も実力もある弁護士に相談したいという欲張りな方はぜひ上村さんにご相談されてみてはいかがでしょう。

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*お電話相談の際、『区民ニュース』の記事を読みました。とお伝え下さい。