まちの仕事人インタビュー
「権利の実現を容易に」周りを笑顔にするボーダレス弁護士
法律事務所アルシエン 弁護士 北 周士 (きた かねひと) さん インタビュー

法律事務所アルシエンパートナー弁護士。1981年静岡県生まれ、長野県育ち。父親が4歳の時に他界。以来母子家庭で育つ。高校生まで長野県で生活。小中高と地元の公立高校に通い、吹奏楽漬けの生活を過ごす。担当楽器はチューバ。大学入学を機に上京し中央大学法学部法律学科に入学。卒業後、合格率2%程度、合格者平均年齢30歳前後といわれた超難関の旧司法試験に若干24歳で合格。弁護士登録後、「町の弁護士」になるべく青山総合法律事務所に入所。1年半ほど経済的ハンデを抱える人をクライアントに案件実績を積み、独立準備のため安藤武久法律事務所に入所。2年ほど経験を積んだ後、独立。その後、司法修習生時代の同期である清水氏、武内氏、木村氏が立ち上げた法律事務所アルシエンにヘッドハンティングされパートナーとして参画、現在に至る。趣味は食事、服、読書(古典からマンガまで)、SNSなど多岐。一番熱中している趣味は妻という愛妻家の一面も。

苦労の多い幼少期を過ごされてきた北さん。弁護士になろうと思ったきっかけを教えてください。

きっかけは家庭内のいざこざを弁護士に助けてもらったことです。私は4歳のとき、父が他界し、6歳のときには祖母も他界しました。立て続けに親族が他界したことで、幼いながらも母がかなりバタバタ忙しくしていたことを覚えています。そんな状況だったので、母は相続したお金の管理を同じく相続人である叔父に任せていたんです。ところが叔父がこのお金に手を付けてしまった。これが原因で裁判になったのですが、裁判というのは非常に特殊な環境。ストレスもかかり、母の負担がさらに重くなっているように見えました。子育てしながら仕事をして、相続対応しつつも裁判してということで母はパンク寸前だったように思えます。そんなとき、ある弁護士が弁護人についてくれました。この方が非常に優秀な弁護士で、この方に担当してもらってからというもの、母の負荷が目に見えて下がっていったんです。こんな風に人のために働ける仕事があるんだ。自分も同じような境遇の人を助けたい。そんな憧れが弁護士を目指すきっかけになりました。

家族を救ってくれた弁護士の姿に憧れて弁護士を目指したわけですね。弁護士としての最初のキャリアに、青山総合法律事務所を選んだ理由を教えてください。

お金のない人でも相談ができるような弁護士になりたいと思ったからです。私は母子家庭で育ったこともあり、裕福ではありませんでした。そしてお金がないとトラブルもいろいろ発生するんです。なので、経済的なハンデを抱えた人でも頼れる弁護士になろうというのが私の就活の軸でした。そういう理由から、大手の弁護士事務所ではなく、いわゆる「マチ弁」になれそうな事務所を探していたところ、青山総合法律事務所にご縁をいただいたというのが就職に至った経緯です。青山総合法律事務所では新人の時から裁量権を持って仕事をさせてもらうことができました。たとえば、入所3日目に一人で法廷に立たせてもらい、2か月で尋問を一人で経験したり。案件自体も50件くらい担当させてもらえたので、弁護士としてとても成長することができましたね。


法廷デビューが入所3日目というのは驚きです。その後安藤武久法律事務所を経て独立されています。独立後も変わらず経済的に余裕のない人からの相談を受けていたのでしょうか。

独立当初はそうでした。開業当時は経済的に困った人を支援する、法テラスからの仕事が中心でしたので。単価が低いせいか、当時は法テラスの仕事をやりたがる弁護士も少なく、仕事を取るのも難しくありませんでした。だいたい一人で120件くらい回していましたね。ただ、このスタイルだと問題もありました。とにかく時間が足りないんです。事務所勤めのときは、実務100%で仕事ができていましたが、独立していれば経営に雑務と実務以外のこともしなければなりません。若いうちは多少無理してでもやれる自信はありましたが、先々のことを考えると体力的に続けるのは難しいと感じました。それと一番大きかったのはキリがないなと思ったから。目の前の悩み事を一つずつ解決していくことも大事な仕事ですが、私が一生かけても助けられる人はせいぜい数千人。それであれば、悩んでいる人の環境を変えたほうが結果的には多くの悩みを解決できるのではないかと思ったんです。そのような考えから開業4ヶ月で中小企業の顧問業務メインにシフトしようとしました。中小企業に元気になってもらい、雇用を増やしてもらう。結果、多くの人にお金が回ってお金に困る人が減り、トラブル自体が生じなくなればというロジックです。

トラブルの対処療法から根治させる方向へと転換したわけですか。方針転換から現在のメイン業務(債権回収・企業法務・経営者の離婚問題)に至った経緯を教えてください。

実は3回、業務内容をシフトしています。先ほどお話した1回目の方向転換では、「ザ・弁護士」という仕事を中心にしていました。具体的には中小企業顧問をはじめ、債権回収の仕事や交通事故、離婚問題などです。方針転換と同時に法テラスからはすべて撤退しました。撤退当初は7割近くの売上を失いましたが、1年後には方針転換が完了。それに伴い仕事も増えて売上も立つようになりました。なので、スタッフに加えてアソシエイトも雇うようになったんです。ただ、ここでも問題が発生しました。雇った人が全然定着しなかったんです。結果、2年内離職率100%というとんでもないブラック事務所を作り上げてしまいました。私は新人の頃から裁量権を持って、自由にやらせてもらっていました。なので、自分が雇う側になっても同じようなスタンスで働いてもらっていたんです。ただこのスタンスだと放置されていると感じる人もいたのだと思います。おそらくこの考えの不一致が、早期退職の原因になってしまったのかなと思います。早期退職が立て続けに起きたことで、「自分は人を雇うのに向いていない」「採用した子を不幸にしてしまう」と痛感し、人を雇うことを諦めました。そうなると一人でできる仕事だけに絞らなければいけない。こうして2度目の方針転換を迫られることになったんです。2度目の転換はかなり現実的な視点でおこないました。具体的にはキャパを越えないよう、①移動なし②電話なし③コミュニケーションコストなし④印刷なしの顧客に集中することにしました。そして、このすべてを満たすのがベンチャー企業でした。こうして2度目の転換ではベンチャー企業の顧問をメイン業務に据えることにしました。だいたい2年くらいで顧問先が40社ほどになり、2022年ごろまではベンチャー企業の育成やIPO支援、社外役員を主業務にしていました。ただ、このモデルにも問題がありました。それは、クライアントが常に若いということ。サービス立ち上げ初期から従業員30人くらいの独り立ちできる状態まで顧問をするのですが、そうするとだいたい3年くらいで私のもとから卒業することになります。そして入れ替わりでまた立ち上げ初期のベンチャーを支援することになる。こうなるとクライアントが常に25歳とか若い人中心になるんです。でも私は歳をとる。そうなるとだんだんクライアントと私の年齢差が開いていき、文化的な背景の共有が難しくなってくるんです。加えて歳を重ねるにつれてビジネスモデルにもピンとこなくなってしまった。こうなると私ではなく30歳くらいの弁護士に依頼をした方がクライアントのためになると思ったんです。あとは、ベンチャーは外部資金を入れることが多いですが、そうすると会社(大株主)と経営者間で衝突が起きることもままあるんです。私は経営者と仲良くなってその人と一緒に仕事をしたいから顧問をしているのに、弁護士としては経営者の立場だけに立つことができなくなる。これは私のやりたいこととは違うなと感じていました。あくまで私は経営者との関係性を大事にしたいと思っていたので。そんな背景もあり、3度目の方向転換。経営者と対立せず、文化的背景も共有できるようなオーナー企業の顧問、経営者の離婚トラブル解決に注力するようになったわけです。それと、飲食店のドタキャン問題を筆頭に、権利があっても実行できないというのは問題だとずっと思っていたこともあり、債権回収業務にも注力しようと今に至っています。


北さんのこだわりの絵が飾られた応接室

常に問題意識を持ち、その解決のため柔軟に方向転換されてきたのですね。「権利はあるのに実行できない」債権の回収業務とは具体的にどのようなことをしているのでしょうか。

ノーキャンドットコムというサイトを運営しており、ドタキャンなどの債務不履行者に対して自動で債権回収メッセージを通知するシステムの運用をしています。私は食べることが趣味なのですが、ドタキャンされた飲食店が泣き寝入りする実情をどうにかしたいという思いからこのサービスを開発しました。いつもおいしい料理を提供してくださる飲食店に対する恩返しのような気持ちでスタートしました。仕組みとしては、ドタキャンが発生したら、加盟店がノーキャンドットコムに連絡。ノーキャンドットコムから弁護士名義で予約者の携帯SMSにキャンセル料支払いの督促をするというものです。予約者もドタキャンした心当たりがあるので、メッセージを無視されることはかなり少ないです。加盟店からいただいているのは、回収できた金額の30%(税抜)を成功報酬としていただくのみで着手金などはありません。加盟店からしても売上ゼロがプラスになる可能性があるうえ、導入コストなしと導入デメリットがないこともあり、現在600店舗以上の飲食店にご活用いただいています。当初は飲食店のみが対象でしたが、現在は美容業界(美容院、ネイルサロンなど)、ホテル向けにもサービスを展開。特に美容業界でのニーズが高く、営業を一切していないにも関わらず、加盟店数が1,800店舗を突破している状況です。もう一つ、債権回収の柱としているのが人材紹介料の回収。特に薬剤師や医師の人材紹介会社向けにサービス提供をしています。これは人材紹介会社から紹介を受けて採用したにも関わらず、採用の事実を隠して紹介料を支払わない先に対して債権回収をおこなうというもの。普通は採用したことを隠されても、採用の事実を証明するのが難しいんですが、薬剤師と医師は別です。彼らは勤務先を厚労省に登録する義務があるため、登録されたタイミングで隠れて採用したことがわかるんです。そうなれば立証が容易なので債権回収の可能性も高まります。このようにお金があるのに、納得できないから払わないという理由で支払いを拒否する相手に対する債権回収もしています。

低単価の商材を扱っている事業者にとって、ノーキャンドットコムはまさに救世主のような存在ですね。仕事をする上で大切にしている考えや信念を教えてください。

「権利の実現を容易に」ということを大切にしています。権利をもっていても、実現までにあまりにも時間と手間がかかるようでは持っていないのと一緒です。なので、権利の実現を容易にできるような仕組みを作っていきたいと思っています。そのためには、弁護士へのアクセス、依頼をしやすくして、手間と費用をかけずに権利を実現できるようにしたいなと。あとは、私もクライアントもお互い笑いあえるような仕事をしたいと思っています。私自身人を笑わせるのが好きですし、人を笑わせて自分も笑うというのが大好きです。弁護士としてこれを実現するために、「今自分が受けようとしている仕事はお互い笑えるような仕事なのか」を常に意識するようにしています。たとえば自分の不得意な分野の相談をいただいたとき、やれないことはないが、もっと適任者がいるのであれば迷わず他の人を紹介するようにするといった具合です。目の前の仕事の機会を逃したとしても、適切な人に相談をすることで結果的に相談者も笑顔になり、それを聞いて私も笑顔になれるのが一番だと思っていますので。


自分も相手も笑いあえる仕事をというのはとても素敵なお考えですね。過去の案件で印象的なものはなにかありますか。

私自身が当事者になった事件は印象的です。内容としては、「余命三年時事日記」というブログが中心となり、ブログユーザーが弁護士に対して懲戒請求を求めるという事件です。私もその標的にされ、約1,300通の懲戒請求が来ました。その懲戒請求には正当な事由がなかったので、放っておいても問題なかったのですが、ここで止めておかないともっと被害が拡大するだろうと考え、徹底抗戦することに決めました。まったく根拠のない懲戒請求は損害賠償の対象になるという確定判決がありましたので、これに基づき懲戒請求を送ってきた約1,000人(1人で何通も送ってきた人もいた)全員を訴えました。結果的にはすべて勝訴したのですが、このとき多くの人に支えてもらったんです。弁護を引き受けてくださった弁護団の先生方、ネットで訴訟費用のカンパを募ったときに募金いただいた方々などが代表的ですね。これ以降懲戒請求を受けた弁護士からの相談を受けることが多くなりましたし、なにより自分が当事者ということでかなり印象的な案件となりました。

1,000人を相手に戦い全勝とはまさに一騎当千ですね。最後に読者に一言お願いいたします。

債権回収や経営者の離婚問題などでお困りの方は一度ご相談ください。特に経営者の離婚問題では、会社の経営継続のために自社株を守らなければいけません。そしてこの分野を得意としている弁護士は少ないかと思います。私は弁護士キャリアのほとんどを経営者との対話に費やしてきましたし、多かれ少なかれ脛に傷がある方が多いことも理解しています。そういう事情も織り込んだうえで付き合える弁護士に相談したいということであればぜひご相談ください。不利な事情も汲んだうえで全力で戦います。また、いままで経験してきた分野には自信がありますので、まずはご相談いただければなと思います。


インタビュー後記

北さんはとにかく明るい方です。インタビュー中も常に笑いが絶えることなく、弁護士というよりも事業家、経営者と話をしている気分でした。そう思ったのはお話上手ということだけが理由ではありません。思考の柔軟性、行動力という点からも事業家のような方であると感じたのです。世にある課題を見つけては、それをどのように解決できるのか考え、解決の道筋が見えれば即行動していく。この姿勢はまさに事業家の姿勢であるように思えます。争いが起きてその解決のために奔走するというのは弁護士の大事な仕事です。ただ、問題が起きそうな「火種」を事前に発見し、争いの芽をあらかじめ摘み取るという予防法務も弁護士として重要な仕事なのではないでしょうか。この「火種」を法律面から解決するだけではなく、サービスを自ら作ることで解決していく。このように法律とビジネス両方の観点を持ち合わせていることが北さんの魅力のひとつなのだと思います。法律とビジネスの垣根や「弁護士は敷居が高い」という壁を越えた、まさにボーダレスな弁護士である北さん。こういう弁護士が日本にもっと増えていけば、日本の中小企業はもっと元気になるのかもしれません。

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*お電話相談の際、『区民ニュース』の記事を読みました。とお伝え下さい。