1962年、東京都文京区生まれ。システムエンジニアを経て、椅子とソファの修復張替を行っていた父親の会社へ入社。2002年に独立し、椅子・ソファの張替え専門店『アルティジャーノ』をオープン。
想いに寄り添って修復する
この仕事を始められたきっかけを教えてください。
システムエンジニアをしていた30歳のころ、椅子とソファの修復張替や、内装の会社を経営していた父から、事業を手伝って欲しいと言われたことがきっかけです。とはいえ、仕事が多すぎて頼まれたのではありません。むしろその逆で、仕事が少なくなってきており、事業の立て直しのために声をかけられました。いつかは商売をやってみたいと考えていたこともあり、思い切って飛び込みましたね。その後、椅子の修復部門を切り離す形で、職人さんを引き連れて独立。2002年に椅子・ソファの張替え専門店『アルティジャーノ』をオープンしました。
仕事の特徴はどのような点にありますか?
座り心地が悪くなったもの、へたってしまったクッション、使い慣れた椅子や、思い出のあるソファなどを修復しています。修復については、ご自宅などへ訪問してお話を伺い、現物を拝見したうえで、お見積をさせていただきます。(23区内は無料訪問)お伺いして、お客さまの想いや考えをしっかりヒアリングすることで、より喜んでいただける修復が可能となります。正式なご依頼となったタイミングで、工場へ持ち帰り、椅子であれば2週間、ソファであれば1ヶ月を目安に修復しています。昔は、ソファや椅子を修復する業者さんが文京区内に数社ありましたが、気がつけば文京区内では、弊社1社となりました。修復した椅子をお持ちすると「祖母が座っていた椅子が蘇った」など、想い出のあるものが蘇ったことを、非常に喜んでいただいています。
想い出づくりのお手伝い
どんなお客さまが多いですか?
やはり地元なので、文京区内のお客さまが多いですね。椅子とソファでは、椅子の方がご依頼は多いです。以前は、百貨店さんからの依頼がとても多くありました。お客さまは、百貨店で購入したのだから、百貨店で直してくれるだろうと考え、家具売り場へ相談されていたようで、百貨店さんから弊社が引き受けて修復していました。ここ数年、百貨店の家具売り場はすっかり小さくなり、ご依頼も減ってきました。一方、増えてきたのはインターネット経由でのお問い合わせで、月50~60件ほどあります。世代としては、親から家具などを受け継いだ方や、家族の成長や変化をずっと傍らで見守り続ける家具をお持ちの40代以上の方が多いです。戦前に両親が海外で購入して普段使いしていたもので、古くなって納戸で眠っていたという椅子の修復などは、出来上がった際に非常に喜ばれましたね。
仕事をするうえで心掛けていることを教えてください。
想いの詰まった家具を修復させていただいているため「想い出づくりのお手伝い」をしているという意識は常に持っています。お客さまと喜びを分かち合い、お互いが幸せになるものづくりをしたいですね。もちろん、ソファや椅子ですから、修復後には今まで以上の座り心地になるよう心掛けています。最近は家具が安く買えるようになりました。正直“直すよりも買った方が安い”ということはあります。しかし、想い出は買うことができません。これからもお客さまに寄り添い、想い出をつなげていく仕事を続けていきます。70歳までは、続けようと考えていますが、そこから先は次の世代に引き継げると嬉しいですね。職人さんも募集しているので、ご興味のある方はお気軽にご連絡ください。
インタビュー後記
修復により新品同様に生まれ変わった椅子は、元通りになっただけではなく、より一層愛着が湧くことになる。中村さんは、世代を超えて、想い出をつなぐ職人だ。
お問い合わせ