まちの仕事人インタビュー
【突き詰めることが価値になる】37年続くポスター貼りの仕事とは
株式会社ポスターハリス・カンパニー 代表取締役/ウルトラポスターハリスター 笹目 浩之 (ささめ ひろゆき) さん インタビュー

笹目浩之(SASAME HIROYUKI)

株式会社ポスターハリス・カンパニー代表取締役

株式会社テラヤマ・ワールド代表取締役

三沢市寺山修司記念館副館長/ば〜ささめ店主/書家

会社設立:1987年

会社住所:渋谷区松濤

※プロフィール写真撮影:栗原 論(Kurihara Osamu)  於:世田谷文学館


今回取材に伺ったのは「ポスターハリス・カンパニー」という渋谷の松濤エリアにオフィスを構える会社です。ポスターを貼るということを仕事として確立し、ウルトラポスターハリスターの肩書を持つ笹目さん。夜はおばんざいのお店も経営されています。笹目さんの演劇とポスターへの熱い思いについて教えていただきました。

会社の設立背景と業態について

1983年に西武劇場(現:パルコ劇場)のポスター貼りを引き受けてから、1987年にポスターハリス・カンパニーは創業しました。社名は文字通り「ポスターを貼る」というところに由来しており、37年間ずっと演劇のポスターを街やお店に貼り続けています。

当時は劇場の新設ブームがあり、銀座セゾン劇場(2013年閉館)やBunkamuraなどが次々と開館していた時代で、演劇やイベントのポスターを街中に貼る仕事の需要も高まっていました。しかし、当時はポスター貼りといえば、劇団の新人が担当する仕事で、誰にも誇れるようなものではありませんでした。

私がこの仕事に踏み込むことになったきっかけは、喫茶店で演劇好きのおじさんに出会ったことです。彼が寺山修司さんの芝居に連れて行ってくれて、演劇の世界に深く魅了されました。最初は演劇プロデューサーを目指していたのですが、ポスター貼りもまた”演劇を支える大切な要素”であることに気付き、そこに特化した会社を立ち上げました。

最初はアルバイトで学生を雇い、新宿や渋谷を中心にポスターを貼りました。飲食店だけでなく、劇場や美術館、大学、ライブハウスなどに配布するメニューも増やし、ポスターを貼る場所を確保しました。ただ単に貼るだけではなく、文化や情報を街に届けるという意識を常に持っていました。

ネットワークづくりも非常に重要でした。劇場や飲食店に直談判してポスターを貼らせてもらうためには、互いの信頼関係が欠かせません。ただお願いするだけではなく、店の方々と親交を深め、時には一緒に食事をしたり飲みに行ったりもしました。そういった信頼があったからこそ、次も『頼むよ』と言ってもらえるようになりました。

経営について

偶然性の出会いを組織する」という寺山修司さんの言葉があります。まさにそういった偶然の出会いを突き詰めて生きているという感じです。

一度も就職せず、誰にも経営について教わったことがありませんでした。最初から税理士は付けていましたが、決算書の読み方も分からない状態でした。そんな中で、徹底していた3か条があります。


・ポスターを貼ることに専念して、印刷など他のことは引き受けない

・飲み屋では仕事の話をしない

・小劇団とは付き合わない


弱小で資金がない状態だったので、取引先が潰れてしまったら成すすべもありませんでした。事業としては、ポスターを貼るだけでなく、印刷なども引き受けていれば大きくなったのかも知れませんが、立て替えが発生しないようにすることは決めていました。また、小さい劇団から「ついでにタダで貼ってくれ」と頼まれても引き受けたりはしないように注意していました。

ただ、経営で苦しんだ時期も2〜3回はあって、すぐに固定費を減らすため事務所を移転したり、リストラをしたりしました。コロナでも大打撃を受けました。公演中止が続出し、ポスターが無駄になってしまいました。コロナ以降も警戒が続き、チケットの販売日が公開日に近づくようになり、ポスターやチラシで宣伝する期間が少なくなりました。ポスターを作らなくても公演が成り立つようになってしまい、劇団からの依頼が激減しました。


文化の継承と展覧会活動

ポスターは単なる宣伝物ではなく、演劇や映画の歴史そのものを映し出しています

1992年、『ウルトラポスターハリスターコレクション展』というタイトルで青山で展覧会を初めて開催しました。この展覧会では、長年集めてきた貴重なポスターを展示し、多くの人に演劇文化の重要性を知ってもらう機会となりました。その後も展覧会は定期的に開催しています。

また、本格的にポスターの保存活動にも着手し始めました。映画には東京国立近代美術館という公共の保存組織がありますが、演劇には保存組織がありませんでした。そこでポスターに食べさせてもらっていることへの恩返しの意味も込めて、演劇のポスター収集を始めました。

ポスターとは別ですが、2000年から(株)テラヤマ・ワールドの代表になり、青森県三沢市にある寺山修司記念館の管理も任されるようになりました。私の人生を変えることになったきっかけの芝居を作ってくれた寺山修司さんへの恩返しのつもりで引き受けています。

仕事の流儀と未来への展望

一度も就職をしたことのない私が始めたこの会社が、37年も続くとは誰も思っていませんでした。どんな仕事でも突き詰めれば価値が生まれるのです。誰も見向きもしなかったポスター貼りでさえ、考え方次第で街の文化を支える大切な仕事になりうるのです。

時代はデジタル化が進んでいますが、私はアナログの価値を信じています。ポスターは動かないからこそ、目に焼き付いて記憶に残ります。そのため、デジタルとアナログ、双方の良さを活かして共存させる未来を目指したいと思っています。

今手元にある2万枚以上のポスターの保存プログラムを誰かに継承するとともに、今後も演劇やポスター文化を守り、次世代に引き継ぐ仕事を続けていきたいと考えています。


【ご案内】展示会について

笹目さんより2点ご案内があります。(記事作成:2025年2月)

今回の記事を読んで、笹目さんやポスターに少しでも関心を持たれた方は足を運んでみてはいかがでしょうか?

世田谷文学館コレクション展  寺山修司展

笹目さんが演劇に興味を持つきっかけとなった寺山修司さんに関わる展示です。

寺山生誕90年にあたり、これまで世田谷文学館で収蔵してきた関連コレクションを一同に展示しています。

時期:2024年10月5日〜2025年3月30日

会場:世田谷文学館  1階展示室

URL:https://www.setabun.or.jp/collection_exhi/20241005_collection.html

ジャパン・アヴァンギャルドポスター見本市

昨年開催し反響を呼んだ「ジャパン・アヴァンギャルドポスター見本市」の第二弾です。

デジタルでは感じることの出来ない、昭和の時代の熱狂を紙のポスターからはきっと感じられるはずです。

時期:2025/4/25(金)~5/11(日)

会場:Bunkamura Gallery 8/ (渋谷ヒカリエ8F)

URL:https://www.bunkamura.co.jp/gallery/exhibition/250425avant-garde.html

インタビュー後記

取材が始まると、すぐに笹目さんはご自身の経験を熱く語り始めて下さいました。笹目さんの凄いところは、30年以上前のことでも、まるで昨日のことのように正確に記憶されていて、お話しされていたことです。「偶然性の出会いを組織する」という言葉がありましたが、何気ない出会いでも大切にして、人との繋がりを育まれてきたからこそ、今でも鮮明に残っているのだと思います。演劇に魅了された青年が、ポスターに人生を変えられて、文化を保存する第一人者となるまでのストーリー。その一端が少しでも琴線に触れた方は、お店で御本人から直接聞いてみて下さい。

お問い合わせ

株式会社ポスターハリス・カンパニー

〒150-0046  東京都渋谷区松濤1-29-3 深町ビル2F

TEL:03-5456-9160

HP:https://posterharis.com/company/company_index.html

ば〜ささめInstagram:https://www.instagram.com/bar_sasame

*ご連絡の際、『区民ニュース』の記事を読みました。とお伝え下さい。