荒⽊町の⼀⾓に、 少し珍しいバーがあります。 お酒を楽しみながら、 本格的なパター体験もできる空間。 ⽇本初のシミュレーションパターBAR「Putter & Bar 20th Hole」 を営むのが、 製薬会社のMR、 ⽣命保険営業を経て、 2022年に未経験から店を⽴ち上げた正⽊駿⼀さんです。
正⽊さんがこの場所で⽬指しているのは、 単に飲⾷を提供することではありません。
⼈と⼈が⾃然につながり 、 店を出る頃には少し前向きな気持ちになれること。 そうした場づくりの背景には、 幼い頃に⽗を亡くした経験、 仕事を通じて⼈と向き合ってきた時間、 そして「やりたいことを先延ばしにしない」 という強い信念がありました。

⽒名:正⽊駿⼀
肩書:株式会社Overspin 代表取締役
店名: Putter & Bar 20th Hole
店舗:東京都新宿区⾈町4-8 STK四⾕三丁⽬ビル3階
店の特徴:⽇本初のシミュレーションパターBAR。
約50本のパターと、Big Tilt、 EXPUTTを導⼊
「⼈のために⽣きる」 という感覚が、 仕事の原点になった
正⽊さんのこれまでをたどると、 今の店づくりは決して突発的な挑戦ではなかったことが分かります。 ⼤学卒業後に⼊社したのは、 製薬会社のMR。 営業職を選びながらも、 扱うものには⾃分なりの意味を持ちたかったといいます。
その背景には、 幼い頃に⽗親を病気で亡く した経験がありました。 医療に関わる仕事なら、 ⾃分の中で⼼を込めて向き合える。 そう考えて選んだのが、 最初のキャリアでした。 20歳を過ぎた頃には、 ⽗が⽣前に残した⼿紙を受け取り、 ⾃分の⽣き⽅をあらためて⾒つめ直す機会にもなったそうです。
その後、 25歳を前に⽣命保険会社へ転職。 直接お客様と向き合えることに⼤きなやりがいを感じる⼀⽅で、 成果が求められる厳しい環境の中、 数字にも真摯に向き合い続けました。 ただ、 その働き⽅は楽なものではなく 、 コロナ禍も重なって、 ⾃分のこれからを考え直す転機にもなり ました。
「37歳以降は⼈⽣ボーナスタイム」 だから、 やりたいことを先延ばしにしなかった
正⽊さんは、 以前から「いつか⾃分のバーをやり たい」 という思いを持っていました。 ただ、それはもっと先の⼈⽣で実現するものだと考えていたそうです。 けれど、 ⽗が亡くなった年齢が⾃分の中で⼀つの節⽬として残っていたことで、 その感覚は⼤きく変わります。
「37歳以降は⼈⽣ボーナスタイ ムだと思っている」。 そんな感覚があったからこそ、 30歳を迎える頃に、 やりたいことを早めに形にしようと決断しました。 ちょうどその頃、 知⼈との会話の中で「パターができるバーがあったら⾯⽩い」 という話が出たことも後押しになり 、 未経験からの開業へ踏み出します。
飲⾷の経験はほとんどなく 、 お酒の銘柄もカクテルづく りも⼿探りの状態。 それでも始めたのは、 単に店を持ちたかったからではありません。 その先に、 ⾃分が本当に作りたい空間が⾒えていたからでした。
⽬指したのは、 ゴルフを⼊⼝に⼈と⼈がつながる空間
正⽊さんがバーという形に惹かれてきた理由は、 昔から⼀貫しています。 それは「⼈と⼈がつながる場所」 を⾃分で作りたいという 思いです。 20歳過ぎからバーに通う中で、 ⼈との出会いが⽣まれる場の⾯⽩さを感じ、 いつか⾃分がそれを提供する側に回りたいと思うようになりました。
そこにゴルフという要素が重なったのは、 より⾃然に会話が⽣まれ、 初対⾯同⼠でも打ち解けやすいからです。 実際の店には約50本のパターが並び、 Big TiltやEXPUTTといったシミ ュレーション機器も備えられています。 ゴルフ好きはもちろん、 未経験の⼈にとっても楽しさを知る⼊⼝になっているそうです。 正⽊さん⾃⾝がうれしいのは、 店の中だけで関係が完結しないこと。 お客様同⼠が別の⽇に⼀緒にゴルフへ⾏ったり、 仕事でつながったりした話を聞く 時に、「やっていて良かった」 と実感するといいます。
「⾃分がいることによって、 誰かと誰かが繋がって⼈⽣が豊かになる。 それは⾃分にとってすごく 幸せ」。 その⾔葉は、 この店が単なるコンセプトバーではなく 、 ⼈の縁を育てる場として存在していることをよく 表しています。
荒⽊町で続けること⾃体が、 街への恩返しになる
店を開いた場所が荒⽊町になったのは、 もともと強い⼟地勘があったからではあり ません。 都⼼に近く 、 条件に合う物件を探す中でたどり着いたのがこの街でした。 内⾒で初めて訪れた時、周囲に個性ある店が並ぶ空気に惹かれ、「ここなら⾯⽩いかもしれない」 と感じたそうです。
もちろん、 スタートは簡単ではありませんでした。 飲⾷未経験、 雑居ビルの3階、 エレベーターなし。 開業からしばらくはノーゲストの⽇も珍しく なく 、 何をどう宣伝すればよいのかも分からない中で、 近隣の店にあいさつへ回るなど、 できることを⼀つひとつ重ねていきました。
そうした時期を⽀えたのが、 荒⽊町の店主や周囲の⼈たちの存在でした。 お客様を紹介してもらったり、 声をかけてもらったり。 競い合うだけではない街の関係性に助けられたからこそ、 今度は⾃分の店をきっかけに荒⽊町を知ってもらい、 近くの店へも⼈が流れていく ような循環をつくりたいと考えています。正⽊さんにとって店を続けることは、 ⾃分の夢をかなえることにとどまりません。 この街の⼀員として、 ⼈が集まり、 街の魅⼒に触れる⼊⼝を増やしていく ことでもあるのです。
まだ模索中だからこそ、 前に進み続ける
正⽊さんは、 今の形に完全な答えがあるとは考えていません。「何をやっていく ことが⼀番いいのかは、 今も模索中」 と率直に話します。 けれど、 その⾔葉は迷いではなく 、 より良い場にしていこうとする意志の表れにも聞こえます。
⽣命保険の仕事では、 将来への備えというかたちで⼈に向き合ってきました。 ⼀⽅で、 今の店で⼤切にしているのは、 その瞬間を少しでもポジティブなものにすること。 扉を開けて⼊ってきた⼈が、 帰る時には少し前向きになっている。 そんな積み重ねが、 この場所の価値なのだと思います。
誰かの⼈⽣を⼤きく 変えるとまで⾔わなく ても、 ここで⽣まれた出会いや会話が、 ⽇常を少し豊かにする。 正⽊さんが荒⽊町で作っているのは、 そんな静かで確かな善意の場なのかもしれません。

インタビュー後記
正木さんの話を聞いていると、華やかな転身の物語というより、「人にどう向き合うか」をずっと問い続けてきた人なのだと感じます。製薬会社でも、保険でも、そして今のバーでも、根底にあるのは一貫して「人のために」という感覚でした。仕事の形は変わっても、その中心にある姿勢が変わっていないからこそ、今の店にも正木さんらしさが自然ににじんでいるのだと思います。
特に印象に残ったのは、「自分がいることによって、誰かと誰かが繋がって人生が豊かになることが幸せ」という言葉でした。店を続ける理由を売上や珍しさだけで語るのではなく、人と人との関係がこの場から育っていくことに価値を置いている。その感覚は、とても静かで、けれど確かな強さを持っています。お客様同士が店の外でもつながっていくことを喜べるのは、自分が前に出ること以上に、誰かの縁が生まれることを大切にしているからなのでしょう。
荒木町で営むパターバーは、珍しい業態だから面白いのではありません。未経験から始め、うまくいかない時期もあり、周囲の店や人たちに支えられながら続けてきた場所だからこそ意味があるのだと思います。自分の店をきっかけに街を知ってもらい、その先で別の店や別の出会いにつながっていくことまで見据えているところにも、正木さんの誠実さが表れていました。
『善人承継』が光を当てたいのは、派手に目立つ人だけではなく、地域の中で人と人との温度ある関係を育てている人です。正木さんはまさに、そうした一人なのだと感じます。扉を開けて入ってきた人が、帰る頃には少し前向きになっている。その積み重ねが、店の空気をつくり、街の印象を変え、誰かの日常を少し豊かにしていく。Putter & Bar 20th Hole には、そんなやさしい力が確かに息づいていました。

お問い合わせ
店名: Putter & Bar 20th Hole
店舗:東京都新宿区⾈町4-8 STK四⾕三丁⽬ビル3階
営業時間:⽉〜⼟曜⽇ 20:00〜26:00 ∕ ⽇曜定休
公式HP: https://20th-hole.com/
Instagram:@20th.hole
*お電話相談の際、『区民ニュース』の記事を読みました。とお伝え下さい。
酒井健吉
2026/06/30(火)