まちの仕事人インタビュー
「共創」で日本の産業を勢いづける存在に
株式会社タシロ 代表取締役社長 田城功揮 (たしろ こうき) さん インタビュー

たしろ・こうき/平塚市出身。大学卒業後、NPO法人NICE理事を務め、新卒で株式会社パソナ パソナキャリアカンパニー(現・株式会社パソナグループ)に就職。2019年より家業である株式会社タシロへ。株式会社タシロ取締役、協同組合FURUSATO代表理事を経て、現在、株式会社タシロ代表取締役社長。

家業に入った理由

田城さんの大学卒業から家業に入られるまでのご経歴をお聞かせください。

  大学を卒業した後は人材会社に就職しました。理由としては人が好きというのと誰かのために頑張れるのが自身のエネルギー源で、そういうところで人材に興味を持って入りました。

  

  ただ最初、家業に入るつもりはなくて、人材業界は起業家として独立する人も多いので、自分起業したいなと思っていたんです。2019年に自分で会社立ち上げたんですけれども、その際に法人化が必要だったんですね。

 

  法人化にあたって技能実習生の監理事業を行おうと考えた時に、事業協同組合の設立が必要で、設立時に4社の企業が必要でした。自分が代表でやるとしたら、どこかの会社の役員になって会社を設立するというのが一番スムーズだったので、家業に入ったというところが経緯です。

 

  自分で立ち上げた会社は、海外の技能実習生の監理の他に、採用アドバイスや代行、ビジネスマナー等の研修講師を事業としていました。学生時代にNPO法人でボランティアとして海外のメンバーと一緒に仕事してきた経験もあって、当時20代という年代だからこそ、いろいろできることがあると思ったんですね。

 

  この会社は2022年には閉じてしまったんですが、家業に入る前の経験のかけ合わせ(人材業界×国際協力)でできた事業でしたので、今でも思い入れがあります。

タシロでの事業内容を簡単に教えてください。

  製造業の中でも精密板金加工と言って、金属の平板から物を加工していく事業をメインにしています。金属の加工素材としては、鉄、ステンレス、アルミ3つがメインなんですけれども、レーザーで切ったり、ンディングマシンで曲げたり、溶接でくっつけたり、鏡面加工をやったり、ヘアラインといって筆でなぞったような綺麗な線が入るような研磨をして、最後の組み立てまで一貫して行っています。

 

  作っているものは装置の部品がほとんどです。装置といってもいろんなジャンルがありまして、多品種少量生産で毎日違うものを作っています。業界的には医療系食品系、工作機械等の産業用装置のパーツ、自動車バイクの部品浮桟橋といったインフラ関係になるものまで幅広いです。作ってるもののサイズも指先サイズから桟橋フレームですと 7.5m × 3mぐらいすごく大きく10トントラックで運ぶような大きさのものまで様々ですね。食品系ではフランクフルトや焼き鳥の業務用で使われる自動串刺し装置もあります。

一番シェアの大きいところは?

  かなり分散されているんですよ。それは経営の方針というのもあって、リスクを小さくするためなんですけど、その中でも売り上げの8~9%一番大きく、それが歯科医院治療用椅子の基盤部分ですね人が座る椅子なので分厚い金属、9ミリ程度のものをレーザー切断したり、削り出したり、溶接したりして作っています

自分の価値を発揮しながら人を活かす

お仕事で大切にしていることや理念はありますか?

  自分の価値を発揮しながら人を活かすことですね。

  経営者の仕事は、まずどういう会社にしていきたいかというビジョンを掲げて次にそのビジョンに必要な人を採用して、その次に採用した人たちを活かせる制度づくり、コミュニケーションを取っていくことだと思っていて、私自身も今これを中心にやってます。

 

  やはり経営者として会社を代表している限りは、社員に満足度高く働いてもらいたい、というのは一番思っていることで、なぜ企業の売上規模を上げていくか、を考えていくと、社員の給料を上げること、あとは世の中に良いインパクトを与えることというのが、すごく大事なことと感じています。

 

  あとは、会社としての安定性ですね。何かあった時の保証、投資がいざという時にできる状態であることが必要です。弊社のような製造業ですと、工作機械が1台1億2億かかっているので、いきなり壊れてしまった時にすぐ買えるリソースがあること重要なことと思っています。

 

  なので、もどういうふうに働けたら幸せなのかなっていうと、やっぱり自分の価値を発揮して、どういう介在価値があるかといったところが一番大事かなと思ってます。

ギフト・ショーでグランプリを受賞

記憶に残る仕事や取引はありましたか?

  2022 年東京インターナショナル・ギフトショーです。ギフトショーっていうのがそもそも展示会なんですけれども、毎年やってイベントの中では来場者がJAPAN MOBILITY SHOWの次に多いものです。商品の中の日本で最大規模のイベントなんですね。そこで 4万6000点以上二千数百社以上の中からグランプリをいただきました


東京インターナショナル・ギフトショ2022授賞式

  

  受賞したのは自社商品の「組み立て式3WAYピザ窯」という商品なんですけれども社商品の開発も私が会社に入ってからのことで、2020年の5月ぐらいからスタートしてて、最初はクラウドファンディングでプロジェクトを行いました。


グランプリを受賞した「組み立て式3WAYピザ窯」


クラウドファンディング準備中の一コマ

  

  弊社のような町工場でグランプリを獲ったことや、老舗メーカーや有名企業ある中で獲れたことも非常に珍しいことではあったんですけども、そのおかげで、会社の知名度、実績としてすごくいいことがいろいろありました

 

  例えば大卒の新卒社員が入社してくれるようになったり社員も自社商品を作事業を行ったことでやりがいがありますと言ってくれました。今までメーカーや設計者から図面が送られてきて、弊社で加工してそれで最後大手メーカー組み立てて完成、というスキームで、図面をもらって、部品をその通りに作るというところが仕事だったんですけれども、中でも20年勤める社員は、自分たちで考えて物を作って、お客さん声が直接弊社のECサイトのレビューやお電話でいただけたところは非常にやりがいにつながったと話していました。

 

  取り上げられて反響があったから次の商品も作ってみたいという声もありますし、初めて自分の子どもお父さんの会社、こいうものを作ってるんだっていうわかりやすいものができたと社員から聞けて、そういうことはすごく嬉しかったですね。

反響はグランプリを獲ってすぐのことでしたか。

  正確に言うと、自社商品の開発事業を始めてから徐々に反響がありました。それがさらに表彰という商品自体の評価を通して、自社商品の企画、製造、販売商品の開発事業が認められたのかなと思います。その後、わかりやすい面でいうと採用面での影響がすごく大きかった。あとは、社内全体がより主体的な動きになったかなと思います。

「タシロは人も含めて高品質」

お客様から言われて嬉しかった一言は?

「タシロは人も含めて高品質」と言われたことですね。

 

  家業に入って、お客さんにどうしてタシロと取引をしてくれてるのか聞いたり、社員に自社の強みを聞いたりしていた時期に、お客さんからそのような回答いただきました。家業は祖父が立ち上げて、今創業59年目になって私で3代目なんですが、人の質っていうのはなかなか一気に変えられないですから、そういうふうにお客さんに言ってもらえると私の先代の父、創業者積み重ねてきたものが認められたような気がしてすごく嬉しかったですね。

五十数年積み重ねてきたからこそ、こういうお言葉をいただけというのもあるんですね。

  そういうところも褒められたのは嬉しかったですね。やり外部の人に自社の社員を褒めてもらうっていうのは私自身嬉しいですし、誇らしい気持ちになりますので、ものづくりとはいえ、人柄対応力といったところで取引いただいてと感じたのは嬉しかったです。

最近取り組んでいることはありますか?

  2つありまして、1つが地域事業者や市役所職員と視察会 2つ目が共創パートナーのネットワークづくり、異業種でチームを組んだイベント出展です

 

  視察は今年の6月から月に1度ほど行っていて、最初は香川県三豊市に行きました。平塚からはの他に建設業とビルメンテナンス業の230代の家業の代表や役員、全国のメンバー15社ぐらい一緒に行ったんですけれども、視察会をやる目的は同じものを見て同じ釜の飯を食べて、「これいいね!」「どうしたらできるだろう?」といった具体的な話ができることだと思っています。それをやっていくことで事業者同士出資して人が集う場づくりとして交流型のコワーキングスペースを作ってみることを一案として考えていて、今弊社で掲げているのも「共創」なので、視察で見たものを事業者同士で異業種連携し形にしていきたいなと思っていますね。

 

  イベント出展に関して言うと、異業種で出始めたのは今年の2月からですね。その中でも今年の10月に平塚商工会議所が主催で商業工業一緒にイベントを作る形で地域の方々が訪れイベントに出展した際に、弊社で作ってオールステンレスのカプセルトイマシーンを出したんですね。カプセルトイマシーンというと通常は樹脂です「共創」を促進させていきたくて、またタシロがどんな加工ができるのかをPRするツールとして活用しています。


タシロが開発したオールステンレスのカプセルトイマシーン


  このマシーンのいいところは、カプセルの中身は異素材や異業種の連携で作っていけて、コラボレーションできるんですね。自社だけだとロゴマークが入っている金属製のキーホルダーを入れていました。ですが、このイベントに来てくれるお客さんは幼稚園生や小学生のお子さん20~30代のお母さんほとんどなんです。自社製品だけで出すと子どもマシーンのレバーを回す際の金属のカタカタカタっていう音も含めて楽しんでもらえるんですそのお母さんは金属のキーホルダーもらってもそんなに嬉しくないと思うので、美容院鍼灸治療院といった美容・健康業界と一緒にコラボレーションしてカプセルの中身を美容院のチケット鍼灸治療の割引券にしてアタリが出ると美容院のヘアオイルバームもらえるといったことをやるとお母さんにも喜んでもらえるんですね。


カプセルトイマシーンの周りは親子連れでにぎわった


  自社だけではない価値をコラボレーションによって生み出す一つの例なんですけども今後やっていきたいな思ってます。


ひらつか産業FESに出展したタシロのブースにて


  このオールステンレスのカプセルトイマシーンは、今年の2月に発表してから活用が進んでいますが、今改良中で、サイズを小さくして持ち運びしやすいようにしているところです。

 

  あと、昨年は台湾でポップアップを実施しました。来年はオランダ視察に行ったり、イタリアもしくはドイツ、フランスでの出展も考えていますので、海外でも市場開拓をしていきたいとも考えています。

最後に、今後展望をお聞かせください。

  弊社では「町工場のイメージをかっこよく、『共創』で日本の産業を勢いづける存在に」をビジョンとして掲げています

 

  まず、製造業特に加工会社で弊社のような町工場に就職したい人かなり少ないんですね。今はどの業界も人手不足なので、もともと志望する人少な加工会社が全体的に苦しい状況にあるのは当前なんですけれどもただ今後の日本を考えた時に、今GDPの2割が製造業、サービス業の3割には小売卸建設などいろいろあります就業人口が減っているとはいうものの、メーカーは設計して組み立てるだけの業態も多く、その組み立てる前のパーツを作っているのが加工会社なので、加工会社就く人がいなくなると本当に物が作れなくなってしまうんですね。そうなると、製造業だけではなく他の産業にも大きな影響を及ぼすわけで。だからこそ、私は町工場のイメージを変えてクリエイティブな仕事がしたい人の人気の就職先にしたいと思ってます。

 

  弊社では社員全員がメタルクリエイターという職種にしていて、一般的なクリエイターといわれる職のカテゴリーの中にそういう金属加工をするような、いわゆる職人と言われるような人たちも入れていきたいなと。職人っていうとかっこよさも感じられる言葉かもしれないんですけれども、ちょっと遠いような存在にも聞こえる言葉かなとは思ってまして、そこのハードルをなくして、Webデザイナーデジタルクリエイターと同じように、クリエイターのカテゴリーの中に入れていきたいなと思ってます。


タシロで活躍するメタルクリエイター



  もっと個人的なところでいうと、日本っていう国は今世界の中で一番衰退してしまったと、ハーバード大学の授業でも言われていますし、海外とのギャップがすごいあると思っています。この間、ドイツ人の友人10年ぶりに会って、平塚に遊びに来てくれたんですけれどもドイツ人の給料は日本人と比較すると倍違うようだと聞いて。あとで調べたら本当で、他の国と格差をすごく感じますね。

 

  日本の企業の 90%以上が同族経営で、日本の経済の再興のためにファミリービジネスがリスクを取ってチャレンジしていかなきゃいけないなというふうにも思っていて、ファミリービジネスでチャレンジングな人たちを増やしていきたいなと思っています。ファミリービジネスの課題として、日本企業全体の3分の1が後継者不足ということも挙がっています。家業持ちからすると、家業の既存事業に対しての興味が湧かなかったり、承継するハードルが高かったりするのは当たり前で。既存事業と全く同じことを続ける必要もないと思いますし、家業をリソースと捉えて、自分色に変えていくところを多くの家業持ちに思ってもらいたいです。

 

  弊社は「日本一挑戦するベンチャー型町工場」とも掲げているので、どこよりもチャレンジしていくことを大事にしたいなと思ってます。弊社のチャレンジが他の企業の刺激になり、海外から見た時に日本のファミリービジネスはすごいな、ベンチャー企業みたいにチャレンジしているなって言われることが一つの目標です。

インタビュー後記  

  家業を継がれる前から、海外でのボランティア活動や会社経営を通じて、グローバルな視点を持ち続けておられている田城さん。製造業とともに、同族経営、ファミリービジネスといった日本の強みを自分が中心となって推し進めて行きたいという思いも窺えました。製造業が私たちの身近にあり、私たちが日常生活を営んでいくにあたってなくてはならない産業であることも、今回のインタビューで改めて再認識しました。

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