今回は、四谷と馬込で中高年者専門のスポーツジムを経営されている枝光聖人さんにお越しいただきました。中高年齢者にとって、真の健康とはどのようなものなのか、「なるほど」と納得するお話をいろいろ聞かせていただきました。


Photo:長谷部ナオキチ

高齢者の元気の源は「筋肉」にあり

高木優一:相続の仕事をしていてつくづく思うのは、日本は世界に誇る長寿の国であることは間違いありませんが、健康寿命とリアルな寿命の乖離がとても大きいという事実にも目を向けなければいけない、ということです。

先日、ある物件を売りたいという話がありました。抵当権がない、つまり借入れがない物件なので、どうして売り急ぐのかと聞くと、親が施設に入所して15年経ち、手元のお金が底をついてしまった、仕方なく先祖代々の受け継いできた不動産を処分しなければならないという話でした。

また、今まで私のラジオ番組やこの対談で議員の先生にも何人か登場していただきましたが、行政の高齢者施設への支援、補助はもう限界に来ているという話が必ず出ます。確かに長生きはするのでしょうが、実際、健康寿命という視点で考えると、決して誇れる状況ではないと思います。



枝光聖人:高齢者における認知症のリスクと活動量とは比例しています。活動量の低い人は当然認知症のリスクが高まります。活動量は筋肉と密接に関係していると言っていいと思います。たとえば、どこかへ出かけたくなる気持ち、つまり活動しようという気持ちは、無理やり「出かけましょう」という他人の声によってうながされるのではなく、自発的に自分から「出かけたい」という気持ちが湧き出てくることが大切なんですね。



高木優一:なるほど、それはよくわかります。身体が動けなくなると、気力がとたんに萎え、どこにも出て行きたくなくなる。そしてますます認知症が進むという悪循環を生むのですね。


枝光聖人:健康度が高まれば自然に自ら出かけたくなりますし、もう一つ先の駅まで歩いてみようという気にもなります。友達と会ってみようとか、美味しいものを食べてみようとか、あらゆる行動が前向きになります。この意欲は「筋肉」によって創られるのです。

私が代表を務める心身健康倶楽部では「人生は筋肉だ」というスローガンを掲げていますが、まさに健康度を上げるのは筋肉の力なのですね。筋肉が衰えてしまうと動作が緩慢になり、食欲もなくなるので栄養が充分に吸収できなくなり、会話も弾まなくなって鬱を誘発することにつながってきます。


高木優一:そういう事例は私も本当によく眼にします。


中高年には、身体の健康だけでなく、心の健康への配慮も大切

枝光聖人:それでは筋肉はどうすれば作れるのか。歩けばいいのか。ゴルフやテニスをやればいいのか。そうではありません。それなりの負荷を課したトレーニングをしなければなりません。それではトレーニングをすればだれでも筋肉がつくのかと言えば、それも違います。現に一般のスポーツジムに行って1gの筋肉もついていない人も大勢います。だからすぐに辞めてしまう。一定の法則に基づいた指導を受けながらトレーニングしなければ筋肉はつきません。今、日本のフィットネス人口は400万人と言われていますが、これは日本の人口の3%です。わずかそれだけの人しか筋肉を保持できていないということになります。高齢者の割合は全人口の25%ですから、ほとんどの人が筋肉が衰えるのを放置しているという状況です。



高木優一:筋肉は放っておけばどんどん衰えてしまうのですね。


枝光聖人:その通りです。でも、加齢に伴って筋肉が減ってしまうのは仕方がありません。ですから、まだ元気な時、動ける時に何をするかが大切なのです。動けなくなってからトレーニングをするのではなくて、動けるうちにトレーニングをすることがポイントです。


高木優一:なるほど。プロのスポーツ選手だって同じことですね。怪我をする前にトレーニングをして怪我をしないようにする。だからイチロー選手みたいに長く現役で活躍できる。


枝光聖人:また、我々は身体だけでなくメンタル面、つまり心も同時についていくことが重要だと考えています。「やる気」「モチベーション」「目的」といった意志を醸成する要素です。さらには、環境への配慮も大切です。やりやすい場所の提供、的確な指導を行えるトレーナーの配備とかですね。それと食事の指導なども重要なポイントです。プロの選手のトレーニングならば高いマインドや環境がもともと備わっているわけですから身体の鍛錬だけに集中すれば良いわけですが、一般の中高年や高齢者には、身体と同時に心も一緒にケアしなければなりません。


高木優一:なるほど。それで心身健康倶楽部なのですね。



枝光聖人:いわゆるパーソナルトレーナーは身体のことしか見ませんが、私どもでは心と環境までを配慮したトレーニングを心がけています。人によって体力もライススタイルも経済環境もまったく違います。それを総合的に見てトレーニングを行う必要があります。


高木優一:今、その心身両面のケアができるパーソナルトレーナーの育成もやられているのですね。


枝光聖人:はい。将来は10万人まで増やしたいと考えています。


地域密着型のスポーツジムを目指す

枝光聖人:私の施設の場合、自宅で自主トレができる人はターゲットとは言えません。健康でいたい、だから運動を続けなければいけない、それが分かっていても、自分ではできない中高年の方。そういう人たちに来てもらいたいのです。つまり、一般のトレーニングジムとは競合しないということです。一般のジムでは自主トレができる人がさらに鍛えるために行く。我々とは客層がまったく異なります。ですから、私の事務の隣に大手のスポーツジムができても大丈夫なのです。


高木優一:地域への社会貢献というスタンスですね。


枝光聖人:そお客さんの中には一人暮らしの高齢者の方も結構いらっしゃいます。そういう方に「毎週1回定期的に会うのは枝光さんぐらいだから、私が来なくなったら様子を見に来てくれ」って言われることもあります。実際に、ある高齢者の方でしたが、そういえば最近お見えにならないな、って思っていたら息子さんから「亡くなりました」という連絡が入りました。ジムへ通うのが父の唯一の愉しみだったんですよ、っておっしゃっていたそうです。


高木優一:なるほど。まさに地域密着型のジムなのですね。独居高齢者、地域密着というようなキーワードを並べると、私のビジネスともリンクしてきます。私が子供の頃に比べると高齢になって一人暮らしをしている方の割合は増加の一途を辿っていますね。相続の様々な現場に立ち会うと、それを強く実感します。


枝光聖人:私の住んでいる横須賀にも高齢者の独居や、だれも住まなくなった空き家などが多く見られます。


高木優一:以前、私のラジオの番組やこの対談にも出ていただいた牧アイティ研究所の代表を務めておられる牧壮さんは、ITの利便さと使い方をシニア世代に広め、高齢者が社会的に隔離された状況を打開しようと活動されています。ご本人もまもなく80歳を迎えるという年齢ですが、とにかく元気だしアグレッシブです。枝光さんや牧さんのご尽力によって、少しでも高齢者が孤独にならない社会が作られていくことを願っています。本日はありがとうございました。